医療事故マニュアル:まず患者に謝罪…全社連が採用

 全国52カ所の社会保険病院を経営する全国社会保険協会連合会(全社連、伊藤雅治理事長)は、医療事故が起きた際に、過失の有無に関係なく患者側にまず謝罪することを柱とした「医療有害事象・対応指針」を策定し、今月から運用を始めた。責任が明らかになるまで謝罪はしない多くの医療機関とは正反対の対応で、病院グループ全体でマニュアル化した例はないという。全社連は「患者本位の医療への一歩」と説明している。【清水健二】

 指針の基になったのは、米国ハーバード大医学部が06年に刊行した「真実説明・謝罪マニュアル」。東京大の研究者グループが翻訳し、全社連が日本の病院向けに修正したうえで大手病院グループで初めて採用した。

 指針は「隠さない、逃げない、ごまかさない」が基本方針。過誤の有無が明らかでない段階でも、患者の期待に反した結果になったことへの「共感表明謝罪」をするとしたのが特徴だ。

 具体的には、従来は「院内で十分検討した後、病院の統一見解を患者に説明する。親切心や同情で、安易に責任を認めたり補償を表明するのは慎まねばならない」としていた点を、「何が起こったかを直ちに説明し、遺憾の意を伝える」と改めた。最初の説明役についても、「診療科の責任者や病院管理者が複数で」としていたのを「治療を実行した担当医が適任で、担当看護婦の出席も患者の助けになる」と変更した。

 同様の対応を04年から実践していた社会保険相模野病院(神奈川県相模原市)では、職員からの有害事象(患者に望ましくない事態が発生すること)の報告が倍増し、透明性が飛躍的に高まったという。指針策定の中心になった沖田極・下関厚生病院長は「医療事故の紛争の多くは、最初のボタンの掛け違いが原因。患者と医師の仲立ちをするメディエーターの養成も進め、新たな医療安全文化を育てたい」と意気込む。

 「謝罪マニュアル」の普及を進めている埴岡健一・東京大特任准教授は「患者と医療側が同じ目線に立った画期的な取り組み。国立病院機構なども追随してほしい」と話している。

毎日新聞 2008年6月25日 15時00分

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