今週のお役立ち情報
SPEEDO水着批判は的外れ
【PJ 2008年06月24日】−
日本水泳連盟(以下、日本水連)のスポンサーのうち、アシックス、デサント、ミズノの三社はオフィシャルサプライヤーであり、オリンピックをはじめとする大きな競技会で、日本水連の支配下選手に独占的に水着を提供する契約を結んでいる。
スピード社製の水着を着用した選手が好記録を連発し、選手側からスピード社製の水着使用を求められても、水連がすんなりと使用を許可できなかったのは、この契約の取り扱いの問題に過ぎない。結局、日本水連はスピード社製水着の着用を許可したが、この決定は、日本水連の英断と言うより、オフィシャルサプライヤー三社の苦渋の選択だったと言っていい。
契約上、スピード社製水着の着用を拒否することもできたはずだが、もし着用を拒否して、オフィシャルサプライヤー三社の水着を着用した選手が不本意な結果になったとすれば、三社へのダメージは計り知れず、対応を罵(ののし)られた可能性だってある。オフィシャルサプライヤー契約は2017年3月まで継続することになっており、今回苦渋の決断をした三社は、名誉挽回(ばんかい)のために必死に商品開発を進めるに違いない。
この水着騒動の中で「水着によって記録が左右されるのはおかしい」との意見がある。例えば18日のPJオピニオン水泳はいつから水着の大会になったのか? スピード社の水着問題について一考では、「スポーツとは本来、競技者の能力を競う物で、競技に付帯する器具の性能を争う物ではないと考える」と述べられている。
スポーツ競技に多くの人が熱狂するのは、記録をたたき出した選手を称賛する熱狂であると同時に、人間が秘めた能力の極限を目の当たりにした喜びを感じるからだろう。
では、"人間の能力"とはなんだろうか。上記のPJオピニオンでは、スポーツ競技に用いられる器具の効果を極限まで除外した「生物としての人間の能力」を人間の能力として想定しているようだ。現在行われている運動生理学に基づいた科学的トレーニングは、まさに生物としての人間の運動能力を効率的に向上させることが目的だが、その一方で、近代スポーツの発展が、スポーツ用具の開発・改良によってもたらされてきたことも忘れてはならないだろう。
陸上競技を例に取れば、最もシンプルな「走る」という運動でも、100メートル走と、マラソンでは履いているシューズが違う。陸上トラックにはウレタン舗装や合成ゴム舗装が施されており、スパイクシューズが使用される。市街地を走る事が多いマラソンでは、ピンのないマラソンシューズが使われている。スパイクシューズのピンの長さや位置は選手によって違うし、シューズの形状はもちろん、シューズのソール(底面)の硬さや厚みも多種多様だ。選手は、数あるシューズの中から自分に適したシューズを選び、「走る」能力を十分に引き出すことを目指す。
水泳の水着も同じだ。流体力学を駆使し、抵抗を抑える素材と形状によって「泳ぐ」能力を十分に引き出そうとしている。それは、科学技術という人類の英知を結集した成果でもある。ただし、スピード社が開発した新しい水着によって新記録が生まれたとしても、記録は選手自身の栄誉であって、その選手の能力を引き出した技術は補助的技術に過ぎない。その意味では、道具選びもまたスポーツ競技の一部であるだろう。
各スポーツ競技に定められている規定(レギュレーション)は、競技団体が主体的に決めた「人間の能力」と「競技」の定義にほかならない。薬物摂取(ドーピング)によっていい記録が出てもそれは「人間の能力」ではなく、水泳でフィンやパドルを使ってはいけない、というのも、競技団体の定義だ。言うまでもなく、スポーツ競技はレギュレーションの中でどれだけの記録が出せるかを競う、公正でフェアな争いだ。
だから、水着がレギュレーションに違反しないのであれば、選手にはその水着を着用して大会に参加する権利がある。前述のオピニオンでは「スピード社が開発した水着を着用した選手が競技に勝利し名誉を手に入れても、当の選手は心から喜べるのか?満足できるのか?」と述べられているが、選手はなにも後ろめたいことを感じることはなく、いい記録が出れば、素直に喜び、満足して欲しい。わたしも心から称賛する。水着が泳いだのではなく、選手が泳いだのだから、当然の称賛だと思う。
「生物としての人間の能力」を評価するなら、筋量を測定したり、心肺能力を測定したりすればいい。だが、スポーツ競技は、身体測定ではない。道具を選び、フォームを改良し、血のにじむような努力と、大会に向けた体調調整をした選手が栄光をつかみ取る場だ。「道具の性能に頼ることなく競技すべきだ」というレギュレーションに関する批判を封殺するつもりは毛頭ないが、その批判は選手に向けられるべきではない。選手に対する、スピードの水着を着て出した記録に満足できるのか、という問いかけは、的外れで侮辱的だとしか言いようがない。【了】
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※この記事は、PJ個人の文責によるもので、法人としてのライブドアの見解・意向を示すものではありません。また、PJはライブドアのニュース部門、ライブドア・ニュースとは無関係です。
パブリック・ジャーナリスト 小林亮一【 宮城県 】
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スピード社製の水着を着用した選手が好記録を連発し、選手側からスピード社製の水着使用を求められても、水連がすんなりと使用を許可できなかったのは、この契約の取り扱いの問題に過ぎない。結局、日本水連はスピード社製水着の着用を許可したが、この決定は、日本水連の英断と言うより、オフィシャルサプライヤー三社の苦渋の選択だったと言っていい。
契約上、スピード社製水着の着用を拒否することもできたはずだが、もし着用を拒否して、オフィシャルサプライヤー三社の水着を着用した選手が不本意な結果になったとすれば、三社へのダメージは計り知れず、対応を罵(ののし)られた可能性だってある。オフィシャルサプライヤー契約は2017年3月まで継続することになっており、今回苦渋の決断をした三社は、名誉挽回(ばんかい)のために必死に商品開発を進めるに違いない。
この水着騒動の中で「水着によって記録が左右されるのはおかしい」との意見がある。例えば18日のPJオピニオン水泳はいつから水着の大会になったのか? スピード社の水着問題について一考では、「スポーツとは本来、競技者の能力を競う物で、競技に付帯する器具の性能を争う物ではないと考える」と述べられている。
スポーツ競技に多くの人が熱狂するのは、記録をたたき出した選手を称賛する熱狂であると同時に、人間が秘めた能力の極限を目の当たりにした喜びを感じるからだろう。
では、"人間の能力"とはなんだろうか。上記のPJオピニオンでは、スポーツ競技に用いられる器具の効果を極限まで除外した「生物としての人間の能力」を人間の能力として想定しているようだ。現在行われている運動生理学に基づいた科学的トレーニングは、まさに生物としての人間の運動能力を効率的に向上させることが目的だが、その一方で、近代スポーツの発展が、スポーツ用具の開発・改良によってもたらされてきたことも忘れてはならないだろう。
陸上競技を例に取れば、最もシンプルな「走る」という運動でも、100メートル走と、マラソンでは履いているシューズが違う。陸上トラックにはウレタン舗装や合成ゴム舗装が施されており、スパイクシューズが使用される。市街地を走る事が多いマラソンでは、ピンのないマラソンシューズが使われている。スパイクシューズのピンの長さや位置は選手によって違うし、シューズの形状はもちろん、シューズのソール(底面)の硬さや厚みも多種多様だ。選手は、数あるシューズの中から自分に適したシューズを選び、「走る」能力を十分に引き出すことを目指す。
水泳の水着も同じだ。流体力学を駆使し、抵抗を抑える素材と形状によって「泳ぐ」能力を十分に引き出そうとしている。それは、科学技術という人類の英知を結集した成果でもある。ただし、スピード社が開発した新しい水着によって新記録が生まれたとしても、記録は選手自身の栄誉であって、その選手の能力を引き出した技術は補助的技術に過ぎない。その意味では、道具選びもまたスポーツ競技の一部であるだろう。
各スポーツ競技に定められている規定(レギュレーション)は、競技団体が主体的に決めた「人間の能力」と「競技」の定義にほかならない。薬物摂取(ドーピング)によっていい記録が出てもそれは「人間の能力」ではなく、水泳でフィンやパドルを使ってはいけない、というのも、競技団体の定義だ。言うまでもなく、スポーツ競技はレギュレーションの中でどれだけの記録が出せるかを競う、公正でフェアな争いだ。
だから、水着がレギュレーションに違反しないのであれば、選手にはその水着を着用して大会に参加する権利がある。前述のオピニオンでは「スピード社が開発した水着を着用した選手が競技に勝利し名誉を手に入れても、当の選手は心から喜べるのか?満足できるのか?」と述べられているが、選手はなにも後ろめたいことを感じることはなく、いい記録が出れば、素直に喜び、満足して欲しい。わたしも心から称賛する。水着が泳いだのではなく、選手が泳いだのだから、当然の称賛だと思う。
「生物としての人間の能力」を評価するなら、筋量を測定したり、心肺能力を測定したりすればいい。だが、スポーツ競技は、身体測定ではない。道具を選び、フォームを改良し、血のにじむような努力と、大会に向けた体調調整をした選手が栄光をつかみ取る場だ。「道具の性能に頼ることなく競技すべきだ」というレギュレーションに関する批判を封殺するつもりは毛頭ないが、その批判は選手に向けられるべきではない。選手に対する、スピードの水着を着て出した記録に満足できるのか、という問いかけは、的外れで侮辱的だとしか言いようがない。【了】
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