米国は北朝鮮に対するテロ支援国家指定を解除するという。拉致解決の一つのテコを失うことになるが、嘆いていても仕方がない。政府は次なる策を立てて、粘り強く一層の努力を。
米国は、北朝鮮が二十六日にも行う「すべての核計画申告」と同時に、テロ支援国家指定解除の手続きに踏み切るという。
来年一月に任期切れを迎えるブッシュ大統領は、北朝鮮の核問題の進展で外交成果を挙げることを最優先の課題に据えている。四月のシンガポールでの米朝会談で同意していたようだ。
これまで日本は、北朝鮮による日本人拉致を現在進行形のテロであり、指定解除をしないよう、ブッシュ政権に要請してきた。拉致解決に具体的な進展がないなかでの解除は納得しがたい。日米同盟というが、米国は国益や政権の都合を優先したのだろう。
ライス国務長官は「北朝鮮に対し拉致へ対処するよう圧力をかけ続ける」という。日米連携の必要性はいうまでもない。
ただ、解除とともに対敵国通商法の適用除外も実施され、米国や国際機関の対北融資、経済支援が可能になる。日本の対北経済制裁の効力も含めて「圧力」が弱まるのは避けられない。
先の日朝協議で、北朝鮮は「拉致問題の解決に向けた具体的行動を取るための再調査を実施する」ことを約束した。まずはここを厳しく検証する必要がある。
当然、被害者の返還に結び付く調査でなければ意味がない。制裁の一部緩和凍結、送金禁止など新たな制裁も考えておくべきだ。
もう一つは「支援」もテコになりうる。六カ国協議で北朝鮮の核申告による「第二段階措置」が終われば、見返りとして、エネルギー支援、さらには経済支援が日程に上ってくる。この分野における日本への期待は大きい。
政府はこれまで拉致・核・ミサイルの包括的解決を日朝国交正常化の大前提にしてきた。安全保障、とりわけ自国民の生命と財産を守ることは国家としての最重要の責務だからだ。
あらためて、周辺国の理解を深め、協力、連携強化を取り付ける必要がある。その過程で「対北支援」が拉致解決の大きなテコになるよう努力すべきだ。
「私の手で拉致問題を解決したい」。福田康夫首相は、就任時の公約を忘れてはいけない。
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