地球温暖化の原因物質とされる二酸化炭素(CO2)の国内排出量取引が今秋にも試験的に実施されることになった。
これまで、環境省や市民団体が早期導入を求めていたのに対して、産業界や経済産業省は競争力低下や統制強化などを理由に反対の立場を崩さなかった。福田康夫首相が北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)を前に決断した。欧州のみならず、米国でも導入の機運が高まり、このままでは、後れを取ると判断したと思われる。
京都議定書の削減目標を達成し、さらに、13年以降もより厳しい削減を続けていくためには、考えられるあらゆる手段を使わなければならない。国内排出量取引もそのひとつだ。
欧州連合(EU)が05年から開始した排出量取引は、当初の事業所に対する排出量の割り当てが甘かったことなどで、十分な成果が上がらなかったといわれている。そこで、EUは08年からの第2期で改善措置を講じている。
排出量取引は適切な制度設計であれば、削減努力が報いられる。企業努力で目標を大幅に超過達成できれば、余剰分の排出量を売却できるからだ。また、排出量価格が適正水準であれば、過剰に排出しそうな企業も、費用を余分にかけずに目標の達成ができる。
東京都が導入を目指している大規模事業所に対する二酸化炭素削減義務化のための条例案が23日の都議会委員会で可決された。同条例案にも、削減義務を達成できない事業所は超過達成できた事業所から排出量を購入できる制度が盛り込まれている。こうした使い方なら、全体の排出量削減にも寄与する。
しかし、排出量取引は二酸化炭素削減の決定的手法や主役のように受け取られがちだ。本来、価値のないものを価値のあるものに表示替えし取引するのが排出量取引であり、京都議定書でも補助的手法とされた。万能ではないことは理解しておく必要がある。
加えて、金融商品として取引されることから、投機にもさらされる。最少費用での排出量目標達成が実現しない事態もあり得る。
温暖化対策としては道路特定財源の見直しの中で、環境税化も選択肢のひとつになっている。かつての公害対策で採用された直接規制も考えられる。規制量を上回った時には課徴金をかける手法だ。また、技術開発などには補助金などを投ずることで、削減を促進する手法もある。日本経団連の自主削減目標をより強め、国との協定に格上げすることも検討材料になる。
温暖化対策はひとつの対策でできるやさしいものではない。可能な各種の手法を駆使しなければ達成は困難だ。その中で、国内排出量取引も削減に役立つ仕組みとして作り上げていく必要がある。
毎日新聞 2008年6月25日 東京朝刊