◎消費税上げ先送り いまの景況下で当然の判断
福田康夫首相が、消費税引き上げについて「決断の時期」とした発言を撤回し、結論を
先送りする意向を示したのは、当然の判断である。「第三次オイルショック」との声も出るほどの急激なエネルギー・原材料高により、企業の景況感は急速に悪化している。景気の足を引っ張る増税などできる状況ではない。
消費税引き上げに積極的な自民党の「財政再建派」は、国民に不人気の政策でも、勇気
を持って正論を貫くと言うが、これが本当に正論といえるのか、はなはだ疑問だ。不況下で増税をしないというのは経済学の常識であり、患者の体力を無視して、劇薬になりうる強力な薬を処方する医師が「名医」とは思えない。もし強力な薬を処方するのなら、まず先に患者の体力回復を図るべきだろう。
自民党内には、消費税引き上げに反対する「上げ潮派」もいる。中川秀直元幹事長は「
ゼロ成長で増税すれば、日本経済は間違いなくマイナスになる。つぶれる企業も出てくる」と述べた。いまの景況下で、消費税引き上げを求める「財政再建派」の主張と、どちらが正論なのか、問われるまでもないはずだ。
民主党の小沢一郎代表も、「(政府には)たくさんのお金がある。ものすごい無駄遣い
であり、それをちゃんとすればいい」と述べ、霞が関の「埋蔵金」を活用し、歳出を切り詰めれば、消費税引き上げは必要ないと指摘している。他の野党もほぼ同意見といえるだろう。福田首相の発言を機に、自民党も足並みをそろえ、無責任な引き上げ発言を封印してもらいたい。
国際エネルギー機関(IEA)事務局長は先ごろ、現在の状況は「第三次オイルショッ
クと言える」と述べ、経済負担は第一次を上回り、第二次オイルショックに迫っていると指摘した。日本企業の投資意欲、個人の消費マインドは急速に下降線をたどっている。
政治の目的は、豊かで安定した国民生活の実現にあり、財政再建はあくまでその手段に
過ぎない。財政再建を目的化し、景気を悪化させても構わないといわんばかりの主張は、やはり間違っていると言わざるを得ない。
◎農山漁村交流 子らに民話も聞かせたい
国の「子ども農山漁村交流プロジェクト」のモデル地区として、奥能登の二市二町(輪
島、珠洲、穴水、能登)と南砺市の五箇山・利賀地区が同プロジェクトを先行することになった。三泊四日から一週間の宿泊体験を有意義なものにするため、農作業などの手伝いに加えて、その土地の固有の民話、いわゆる昔ばなしを子どもたちに聞かせるようなことも盛り込んでもらいたい。
思いつきでいうのではない。実は利賀地区は市町村合併前の旧利賀村時代、東京・武蔵
野市と姉妹提携を結び、同市の児童たちを招いて民宿や民家に宿泊させ、そば打ちやイワナの手づかみなどを体験させるとともに、五箇山に伝わる昔ばなしを聞かせたり、民謡を教えたりして宿泊体験を豊かにしてきたという先例があるのだ。三十年以上の歴史を持つ素晴らしい交流である。
近年は皆で大広間で大皿のごちそうを囲んで味わうとき、感激のあまり泣き出す子もい
るそうだ。いつも独りぼっちで食事をしているため、大勢で食事をする新鮮な体験に感動して、胸が詰まって涙を流すのである。
夜の食事の後で、宿の年寄りたちから昔ばなしをしてもらったり、民謡を教わったりす
る。宿泊体験が終わって東京へ帰るとき、別れを辛いといっていつまでも手を握ろうとするそうである。
奥能登の二市二町では今月下旬から来月にかけて、金沢、小松、白山三市の小学校三校
の五年生、あるいは六年生が農家民宿や民宿に分宿して田舎の生活を体験する。石川県では初めての試みだから、利賀地区のようにやってほしいものだ。利賀地区は九月下旬、例年通り武蔵野市の児童を招いて一週間の宿泊体験をさせる。
このプロジェクトの眼目は農山漁村を知らない都市の子どもたちに田舎暮らしを体験さ
せることによって社会性を養わせ、同時に受け入れる田舎を元気にさせることにある。仕事の手伝いのほか、お祭りなど、さまざまな民俗行事を子どもたちに体験させるのだが、土地に伝わる昔ばなしを加えることで「土地の心」を伝えたい。