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労働組合はなぜ衰えたか――アメリカの例にみる(1) ニュース記事に関連したブログ

2008/06/23 11:13

 

「労働組合」あるいは、「労組」という文字が新聞の一面をにぎわすこともすっかり少なくなりました。水面下では労働組合が政治や経済に影響を及ぼすことももちろん多々あるのでしょうが、表面ではその存在感は薄れる一方です。

これは一体なんなのか。
労働組合の先進国であるアメリカの場合でも、全体の流れとしての衰退は同じです。
しかしなお政治や選挙の意外な場面で、意外な役割を果たすこともあります。

アメリカの労働組合は2004年の大統領選挙できわめて複雑な反応をみせました。
今回の予備選段階でも同様に、屈折した役割を演じています。
このへんの実情を報告します。

以下の紹介は雑誌『SAPIO』6月25日号に私が書いた記事の転載です。
    

              =================

NEA

 アメリカの首都ワシントン、その中心にあるホワイトハスウのすぐ北、ラフィアット公園をひとつ隔てた至近距離にどっしりとした白亜のビルが建つ。

 ビルの前のこれまた白い礎石に大きく「AFL―CIO」と刻まれている。このAFL―CIO,つまりアメリカでは最大の労働組合組織である「アメリカ労働総同盟産別会議」の全米本部がここである。

 ホワイトハウスと同様の純白の外観を誇るAFL―CIOビルはまさに威風堂々の立たずまいではあるが、出入りする人たちの姿は決して多くない。だからはじけるような活気をあまり感じさせない。

 なにやらこの労働組合連合体のおかれた立場を象徴するようにも思えてくる。

(写真はAFL-CIOのジョン・スウィーニー会長)



 アメリカの社会と労働組合、アメリカの政治や経済と労働組合――という構図では歴史をちょっとさかのぼると、すぐに生き生きした情景が浮かびあがってくる。

大企業の腐敗した経営陣を相手に戦いを挑む労組幹部たち、現場の工場でストを決行する労組メンバーの労働者たち、大統領や連邦議員の選挙キャンペーンでも活発に運動する労組代表たち、そして国政の場の議会での記者会見や公聴会で積極的に経済や政治の重要課題について熱心に発言する労組指導者たち・・・・こうした場面は長年、アメリカのニュースではおなじみだった。

 映画やテレビドラマでも、労働組合は主役の位置におかれることが多かった。古いところでは『波止場』や『ノーマ・レイ』という映画がその種の作品として有名だった。

 
 アメリカという国全体が労働組合に動かされるといっても、それほど誇張のない状態が長年、続いてきたとさえいえるだろう。この国での労働組合の役割は歴史的にきわめて大きいのだ。その理由はアメリカの建国の精神とも密接にからみあっている。


 アメリカは個人の自由や権利の主張が建国理念の基本となった。その一方で大規模な資本を民間に集中しての資本主義・市場経済がエネルギーいっぱいに機能していく。市場経済の発展は産業の自由な発展だった。その産業で働く人間が労働者だった。

 
労働者の権利や自由も守られねばならない。その擁護のためには労働者同士が団結しての組合が最善の手段となる。そこで労働者たちが労働組合へと組織づくられていったわけだ。

 

実際に私自身のワシントンでの報道活動でも、1980年代の日米経済摩擦ではアメリカの労組は一方の重要な主役だった。

 日本から輸入される鉄鋼、自動車、テレビなどの製品が「アメリカの競合業界に損害を与えている」と判定されれば、輸入課徴金などをかけられる通商法「スーパー301条」案とか、アメリカで売られる日本製自動車の部品の一定比率分は現地で調達されねばならないとする「ローカル・コンテンツ(現地部品)」法案は労働組合によりプッシュされて、議会に出ていた。


 AFL―CIOとかUAW(全米自動車労組)という労組によって、だった。労組は労働者を防御するために、どうしても外国製品を締め出す保護貿易主義的な措置を求めるのである。

労働組合は政治的には当時も現在も民主党支持である。だから大統領選挙の際、とくに予備選では労組の支持は重大な意味を持つ。民主党各候補は大手労組の支援を取りつけるため、つぎつぎに保護貿易主義的な政策を打ち出す。


 1984年の大統領選挙ではまさにその傾向が顕著だった。民主党の候補ウォルター・モンデール氏は大手労組としっかり手を組んで、日本を標的とする保護主義法案への支持を宣言していた。

  
 アメリカの労組は政治イデオロギー的には明確に民主党リベラル傾斜なのである。

(つづく) 


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コメント(11)

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2008/06/23 12:54

Commented by baigudong さん

ジョン・スウィーニー会長の写真を拝見すると、労働者の顔から一転、政治家の顔になりきってます。

それとも、中身が「前のまま」、変わったのは外形だけ?

 
 

2008/06/23 13:14

Commented by 古森義久 さん

baigudong さん

お国の労働組合の状況はいかがでしょうか。

 
 

2008/06/23 14:18

Commented by izashun さん

To 古森義久さん
>baigudong さん
>
>お国の労働組合の状況はいかがでしょうか。

だめです。完全に御用組合になりさがってしまいました。ひとつには労働者

階級がリッチになったことと組合の専従者の堕落ないしは何もしないこと

でもいい思いをしていること誰も批判しないことによるのでしょう。

労働者は組合に助けられることもなく賃上げもままならないのなら

組合を脱退するか組合費の支払い拒否をすべきでしょう。会社側も

給料から組合費の天引きをするべきではありません。本来組合費は

組合本部が汗をながして集めるべきものです。

 
 

2008/06/23 19:52

Commented by yosi29 さん

to 古森義久 さん、izashun さん
韓国のアメリカ牛肉輸入反対運動が労働運動の新しい動きでは無いかと
興味を持って追っかけていましたが。
整然としたロウソクを持つ若者の写真で始まり
警察のバスの上に翻る旗、労働団体を含む圧力団体勇姿
毎度繰り返される反政府パフォーマンスに成り下がりました。残念!
最近こんな文章を書きました
日本の官僚には、構造的問題があると思います。
キャリアーとノンキャリアーと二分化された組織構造
キャリアーの同期採用者から次官(官僚組織のトップ)が誕生すると、同期は早期退職(官僚OBの天下り斡旋の必要が組織の重要問題になる)の慣行。
ノンキャリアーは能力に関係なく、出世に上限があるので積極的な組織改善のモチベーションが低く、労働運動に走りやすい、地位が保障されているので極端に走りやすい。

大阪の報道に典型例が良く現れます。

ラインとスタッフが固定された人事構造に最大の問題がありました。
副次的には、労組が政治的な圧力団体であることだと思います。
政治家は、労組の支持を得る為や紛争を避ける為賃金で利益誘導を試みてきました。これが地方公務員の賃金上昇を招き、財政を圧迫します。

 
 

2008/06/23 20:28

Commented by やせ我慢A さん

マフィアの歴史を紹介した番組などを見ると、アメリカの労働組合というものが、いかに非合法組織と一体だったかよく分かります。
そうした面は、今では無くなったのでしょうか。

 
 

2008/06/23 22:55

Commented by 古森義久 さん

izashun さん

ご教示、ありがとうございます。

中華全国総工会という存在は興味ありますね。
中国がILOに加盟して、労働者の団体交渉権を対外的に認めた格好なのに、国内ではそうしていない、という指摘をよくワシントンでは聞きます。

 
 

2008/06/23 22:58

Commented by 古森義久 さん

yosi29 さん

おもしろい話をありがとうございます。

でも時の論題を微妙な形でスライドさせ、他の国や他のテーマに移していくというのは、意図的ではないですよね。

 
 

2008/06/23 23:00

Commented by 古森義久 さん

やせ我慢A さん

労組とマフィアの結びつきは近年ではだいぶ減ったと聞いています。

そういえば映画でもその「結託」はあまりみなくなりました。
現実の反映だと断じることもできないでしょうが。

 
 

2008/06/23 23:16

Commented by yosi29 さん

To 古森義久さん
ご注目ありがとうございます。
ネタフリでは有りますが。
今回下げは考えていません。

 
 

2008/06/23 23:21

Commented by yosi29 さん

To 古森義久さん
追伸
「ハエ」は嫌いです。

 
 

2008/06/24 14:45

Commented by venom さん

>労組とマフィアの結びつき

ジミー・ハッファなどが有名ですね。
彼の名前は、落合信彦の「2039年の真実」で知りましたが、その後
アメリカ人に聞いてみると、大抵の人が知っているのに驚きました。

 
 
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