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東京・秋葉原殺傷:発生1週間 犯罪の逆流が始まった=社会部長・小川一

 事件発生の流れに「異変」が起きているのではないか。そう考え始めたのは00年を過ぎたころだ。入社した81年以来、長く事件を担当した私は、ある法則を思い描いていた。「社会を揺るがす凶悪事件は、大都市から地方へと伝播(でんぱ)していく」--。

 新宿駅西口バス放火6人焼殺(80年)▽川崎・金属バット両親殺害(同)▽深川通り魔4人殺害(81年)▽グリコ森永事件(84年)▽東京・埼玉連続幼女誘拐殺人(88~89年)▽神戸須磨・中学生の連続児童殺傷(97年)……。

 時代の病理を映す犯罪は大都会で噴火し、溶岩のように地方に広がる。私と同世代の記者の多くは似たような実感を持ったと思う。

 ところが、00年に入ると、凶悪犯罪は地方から起き始める。5月、17歳の少年がネットに犯行予告を書き込み、佐賀で西鉄高速バスを乗っ取った。各地で「17歳の犯行」が頻発、犯罪の低年齢化が進んだ。長崎では中1男子が4歳児を誘拐して殺害(03年)、小6女児が同級生を殺害した(04年)。

 のどかな田舎の風景とまるで似合わない事件も相次いだ。秋田では、若い母親がわが子や近所の子供を殺害、自らは被害者を演じてみせた(06年)。長崎のスポーツジムでは散弾銃が乱射された(07年)。「地方発」に転じた凶悪犯罪をみる時、地方の疲弊や格差の拡大を思わざるを得なかった。

 そして、今月8日。歩行者天国にトラックで突っ込んだ男は、青森を出て地方を転々とした後「アキバ」を目指した。男の行動をたどると、地方に拡散していた犯罪が、巡回のあと、再び東京へ逆流を始めたようにも見える。

 先の見えない労働環境。携帯サイトにひとり書き込みを続ける孤独。命の意味を見失うまでの現実感の喪失。25歳の男は「酒鬼薔薇(さかきばら)」を名乗った神戸の中学生や西鉄バスを乗っ取った17歳と同世代でもある。

 時代の病理をすべて身にまとったような男の犯行から何を読み解くのか。惨劇を二度と起こさないために私たちは何をすべきなのか。答えがすぐに見つからない現実に、改めて戦慄(せんりつ)する。

毎日新聞 2008年6月15日 東京朝刊

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