サウジアラビアが原油増産を表明した。供給不安の解消、価格の安定が狙いだが、産油国だけに頼っていいものか。消費国も投機資金を抑え込み、市場を冷やす役割を引き受けるべきだ。
原油高への対応を話し合う産油国と消費国の会合が開かれ、石油輸出国機構(OPEC)の最大生産国サウジが日量二十万バレルを追加増産し、来年末までに生産能力をさらに二百五十万バレル増やす用意があると表明した。
サウジは「高騰は投機によるものだ」と増産を拒んできたが、五月のアブドラ国王とブッシュ米大統領との会談を境に増産へと転じた。自国の安全保障を米国に委ねるサウジとしては、増産要求に応じざるを得なかったのだろう。
米国ドルはサブプライムローン問題を機に信認が低下した。ドル安を嫌ったヘッジファンドが投資先をニューヨークの原油先物市場に切り替え、価格をつり上げて自動車メーカーなどを減産に追い込んでいる。インフレの予防には利上げも選択肢だが景気を一段と低迷させかねない。手詰まりの米国としてはサウジへの増産圧力が数少ない有効策と映ったようだ。
OPECの増産余力はサウジに集中し加盟十三カ国が足並みをそろえての増産は期待薄だ。ベネズエラやイランなど反米を掲げる国は少なくない。サウジの増産も小出しの感が否めず、そこを市場に見透かされたのだろう、原油価格は上昇基調を保ったままだ。
米国は巨額の外国資金を呼び込んで金融収益を稼ぎ出す経済構造を築き上げた。それを自ら否定することはできない。大阪で開かれた主要国財務相会合では、投機が原油高の元凶とする欧州各国に対し、米国は中国などの需要増が原因だと反論し、譲らなかった。
原油高は欧州の消費者物価を通貨統合以来の最高水準に押し上げ、ベトナムなどの新興国では二ケタ台の物価上昇が国民に打撃を与えている。日本のガソリンは一リットル=一七〇円台に値上がりした。
市場は自由であるべきだが、自国利益優先は世界経済を揺るがす。ドル安と連動する原油高をいかにして抑えるか。七月の北海道洞爺湖サミットで取引監視の在り方など有効な手立てを議論してもらいたい。
ガソリン急騰をきっかけに、土、日曜に高速道路を走る車はめっきり減った。省エネの価格抑制効果は大きく、過去の石油危機で実証済みだ。この教訓を地道に生かすことも忘れてはならない。
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