新型インフルエンザ対策を検討してきた与党のプロジェクトチームが、治療薬の備蓄倍増やワクチンの段階的接種拡大などを柱とする対策強化の提言をまとめた。政府が近くまとめる「経済財政改革の基本方針(骨太方針)」にも反映させ、具体化を急ぐよう求めている。
提言は備えと危機管理という観点から国内体制整備や自衛隊活用など多岐にわたる強化策を挙げている。専門家の意見を反映した強化策は評価できる。具体化されれば国民に安心感を与えるだろう。ただ、これで十分と油断はできず、たえず対策を見直し強化していく必要がある。
強化策のうち、感染者の治療に用いる抗ウイルス薬の備蓄倍増は、流行時の混乱回避にかなり効果があるはずだ。現在の備蓄量は、国と地方自治体、それに市場流通分を合わせ全国民の約2割の2800万人分。提言では全国民の4―5割相当まで増やすとしている。実現すれば、流行した際に不足の心配が薄らぐ。
新型として「H5N1」型を想定し、備蓄している「プレパンデミック・ワクチン」については、日本経団連などが希望者への事前接種を求めている。与党の提言は今夏に政府が約6000人を対象に臨床研究として行う接種の結果を見たうえで、来年度以降に段階的に接種拡大し、高い安全性が確認されれば希望者への接種も検討するとしている。
ワクチンは副作用のリスクもあるし、感染の恐れがなければ接種が不要なのは言うまでもない。だが、鳥から人への鳥インフルエンザ感染例が多い東南アジアで働く邦人のなかには、感染リスクにさらされている人もいるはずだ。こうした在外邦人には早めに接種の機会を与えられてしかるべきだろう。
発生時には、新型に効く「パンデミック・ワクチン」を速やかに全国民分用意し、行き渡らせることが重要だ。現在の製造能力では全国民分をつくるのに1年半かかる。提言は新たな製造法を開発して6カ月以内に短縮するよう求めた。
新型の脅威は製造期間が短くなれば和らぐ。この目標達成に向け新たな製造技術の開発を急ぐとともに、医薬品会社を支援して生産体制整備を強力に推し進める必要があろう。