道路交通法の改正で今月から75歳以上に表示が義務づけられた高齢運転者標識(もみじマーク)が、不評を買っている。以前からデザインや色遣いを疑問視する声があり、“枯れ葉マーク”“落ち葉マーク”などとやゆされてはいた。
97年の法改正で登場。75歳以上への表示の努力義務が定められ、01年には対象年齢が70歳以上に引き下げられたが、これまで異論は目立たなかった。75歳以上に義務化する改正法も昨年6月、与野党の賛成多数ですんなり成立している。
不満や批判が噴出した直接の理由は、違反者に行政処分点数を1点科し、4000円の反則金も科す仕組みが広く伝わったせいだろう。それを増幅したのが、施行日のタイミングだ。同じ75歳で線引きする後期高齢者医療制度への批判が強まる折、お年寄りは神経を逆なでされたようだ。
衆院内閣委で「高齢者いじめだ」とする意見が出たり、自民党総務会が紛糾したのも、医療問題とイメージが重ねられたせいだろう。警察庁が1年間は違反者を摘発せず、指導に徹するとの方針を打ち出したのも、無理からぬところだ。
しかし、75歳以上が起こす死亡事故や自身が死亡する率は、他の年齢層より突出している。わかばマークが同様に事故を起こしがちな初心運転者に表示を義務付け、一定の成果を上げていることに照らしても、もみじマークの表示義務化には一理も二理もある。
反発を招いたのは、お年寄りが自分たちを邪魔者扱いする冷淡な空気を感じ取ったせいではないか。若い時は経済発展の中で免許取得を迫られ、年を取ったら免許証の返納を求められる。地方では公共交通が衰退し、病院通いにも買い物にも車の運転が欠かせない現実もある。いたわられるどころか、負担増の施策を強いられる……。間尺に合わない、とお年寄りが感じても無理はない。
運転者標識の眼目は、運転者に慎重な運転を心掛けさせると同時に、周囲に保護すべき車であると知らせ、幅寄せや割り込みなど危険な運転を禁じることにある。それならば、標識の重視義務をドライバーに周知徹底し、違反の取り締まりを徹底するのが先決だ。
お年寄りの理解を深め、表示を普及させる努力も必要だ。もみじマークが不評なら、デザインの変更も検討すべきだ。目的に変わりはないのだから、もみじマークとわかばマークのいずれかを選んでもらうのも一案だろう。
警察庁では72年のわかばマークの導入時、「初」という漢字のマークが分かりやすいとの意見が幅を利かせていた。それを若手の担当者が「ドライバーに気に入られなくては定着しない」と頑強に抵抗、現行のマークが定められた経緯がある。今も問われているのは、優しさだと心得たい。
毎日新聞 2008年6月24日 東京朝刊