原油価格の高騰が人々の暮らしを圧迫している。痛みを訴える業者や市民らによる抗議行動が世界各地で活発化しており、政府に救済や対応策を求める声は高まる一方だ。
そうした中、世界最大の産油国、サウジアラビアの国王が呼びかけて、主要産油国と消費国の閣僚らによる異例の会合が開かれた。1バレルが140ドルに迫った価格水準を「世界経済に有害だ」と声明で訴え、サウジは盟主の威信をかけて増産の意向を表明した。
しかし、サウジが短期間で増やす量は、世界の消費量の0・2%程度で、先物市場の相場反転を望むには力不足だ。サウジは生産能力を今後10年間で最大5割拡大することも検討するというが、既存の大規模油田が老朽化する中で生産能力を大幅に引き上げることは容易ではない。
会合では、原油高の元凶としてしばしばやり玉に挙げられる投機資金も話題になった。原油先物市場の実態を把握するためのデータ集めなどで合意が見られた点は一定の意味がある。ただし、資金の流れ自体を制限することは市場の機能を損ねることにもなり、現実的には望めそうにない。
となれば、先物市場で主要な買い材料となっている需給の逼迫(ひっぱく)懸念に対処する必要が出てくる。供給の大幅増加は物理的に難しく、環境配慮という点からも、消費の削減に取り組むことを基本とすべきだろう。
すでに先進国では価格高騰が石油の消費にブレーキをかけている。特にガソリンを大量に消費してきた米国で、無駄な運転を控えたり小型車に乗り換える動きが広がっているのは注目に値する。地球温暖化防止を声高に叫んでもなかなか変わらなかった消費パターンが変化を始めたのだ。先進国の指導者は、政治的な人気狙いで、ガソリン税の軽減など節約機運と逆行する策に走ってはならない。
先進国で需要が減少に転じる半面、新興国や途上国では先進国の減少分を上回る増加が続く。こうした国の多くは、政府が補助金などで国内の石油製品価格を低く抑えており、国際市場で原油が値上がりしても、国内の販売価格に直接反映されない。このため、原油価格が上がれば消費が減るという原理が働きにくい。
財政負担がかさむことから、最近になって価格を引き上げる動きがアジアを中心に出始めた。望ましい方向である。貧困層の暮らしに配慮する必要があるが、補助金で国内価格全般を抑えるより、特定世帯への所得支援に切り替えた方が弊害は小さくて済むだろう。
地球温暖化防止を唱えながら、石油の大量消費をやめない、というのは矛盾する。原油価格の高騰は、消費が増えるだけ生産を増やしてきた拡大均衡路線に限界が来たことを示すシグナルでもある。
毎日新聞 2008年6月24日 東京朝刊