昨年末の期限から大幅に遅れていた北朝鮮の核計画申告について、ライス米国務長官が近く六カ国協議議長国の中国に提出されるとの見通しを示し、申告後、米国が北朝鮮のテロ支援国家指定を解除する手続きに入ることを言明した。
長官が指定解除方針を明言したのは初めてだ。北朝鮮の申告を受け、ブッシュ大統領が指定解除や、対敵国通商法の適用除外の意向を米議会に通告することになる。
米国は、北朝鮮のテロ支援国家指定の解除について、完全かつ正確な核計画申告と核施設の無能力化が条件としていた。申告を行えば米政権が指定解除に動きだすというのは、北朝鮮側にとって有利と映る。日本は国務長官の発言を受けて拉致問題の進展がない限り解除しないよう、来日した六カ国協議米首席代表・ヒル国務次官補に要請するなどした。
来年一月に任期切れを迎えるブッシュ大統領としては何とかして北朝鮮を動かし、外交上の成果に結び付けたいのだという見方がある。
しかし、ライス長官は、北朝鮮の核計画申告に虚偽の内容が含まれていたりすれば、議会への通告を撤回したり、新たな制裁措置を発動するとも警告した。実際に指定解除が発効するのは、議会への通告から四十五日後になる。この間、北朝鮮側の協力姿勢を注視していく構えと受け取ってよかろう。
申告の検証に当たっては核関連施設への立ち入りや、施設の設計文書、稼働記録の閲覧、北朝鮮当局者への聞き取りなどを認めるよう北朝鮮側に求めていく考えも示した。
先の日朝実務者協議では、拉致被害者の再調査と日航機「よど号」乗っ取り犯関係者の身柄引き渡しへの協力を北朝鮮が約束し、日本側は「一定の前進」として対北朝鮮経済制裁の一部解除方針を決めた。だが、政府は再調査の具体化を制裁の一部解除の要件にしている。こちらも北朝鮮側の今後の出方を慎重に見ていく必要がある。
これまでの経緯を振り返るまでもなく北朝鮮は手ごわい交渉相手であり、ひと筋縄ではいかない。一にも二にも、北朝鮮側の対応を見極めた上で応じる形で手を打つ姿勢が肝要だ。
福田康夫首相は、国務長官発言の後、日米で緊密に連絡を取り合っていると述べた。長官自身、近日中に日中韓の三カ国を訪れる。関係国が一層連携を密にし、拉致や核問題を解決に導くべく北朝鮮に強く働きかけていかなければならない。
調査捕鯨船乗組員の鯨肉横領疑惑を告発するためとして、運送業者の倉庫から鯨肉を持ち出した環境保護団体「グリーンピース・ジャパン」のメンバー二人が、窃盗と建造物侵入の容疑で逮捕された。
調べでは、二人は四月中旬、運送業者の青森支店の配送所に無断で侵入し、乗組員が自宅などに送った鯨肉入りの段ボール箱一箱を盗んだ疑いである。
グリーンピースは五月、業務上横領容疑で乗組員らを告発しており、「証拠入手のため」と持ち出しの正当性を強調していた。しかし、警察は「否認とも受け取れ、証拠隠滅の恐れがある」と判断した。団体事務所などの捜索も行った。
グリーンピース側は不当な逮捕と反発し、「政府や大企業の犯罪行為を防ぐ緊急性がある場合、結果として法を犯すこともあるのは世界の非政府組織(NGO)活動のスタンダード」とも主張している。
とても納得できない。正しい目的のためなら少々の違法行為は許容されるといった主張だろうが、そのような理屈が通るわけはない。刑事事件に発展したのは当然であろう。
乗組員らの告発については、東京地検が、鯨肉は船会社が慰労の意味で乗組員に配っていたことから横領には当たらないとし、不起訴処分とした。
グリーンピース側は、調査捕鯨の正当性も含めて国内の議論を深めることも狙いだったと説明しているが、これでは大多数の反発を招くだけだろう。
日本は調査捕鯨によって科学的データを積み上げ、感情論を排して冷静に捕鯨再開を関係国に働きかけていく姿勢だ。捕鯨に反対するにしても同じであろう。思いが強ければこそ筋道立てて主張し、冷静に対話を深めるべきである。
(2008年6月23日掲載)