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No. 625 骨髄からES細胞様のMAPC細胞株が樹立できる


この話題に関するコメント:(新しいものから)

From 日付
020622-22:14
おくの 020625-17:44
070315-19:24
070406-01:01


Subject:骨髄からES細胞様のMAPC細胞株が樹立できる
Nature AOP, published online 20 June 2002; doi:10.1038/nature00870

Pluripotency of mesenchymal stem cells derived from adult marrow YUEHUA JIANG*†, BALKRISHNA N. JAHAGIRDAR*†‡, R. LEE REINHARDT§, ROBERT E. SCHWARTZ*, C. DIRK KEENE, XILMA R. ORTIZ-GONZALEZ, MORAYMA REYES*, TODD LENVIK*, TROY LUND*, MARK BLACKSTAD*, JINGBO DU*, SARA ALDRICH*, AARON LISBERG*, WALTER C. LOW, DAVID A. LARGAESPADA & CATHERINE M. VERFAILLIE*‡

この論文はBMCから10の36乗に増えてもまだ増え続ける幹細胞株を樹立できることを示し、その細胞株をもとに、BMCにpluripotencyがあるということを証明したということに要約されると思います。

骨髄細胞のpluripotencyについては、たくさんの報告があるし、自分自身でもgreen mouseのBMCをラジエーションなしで尾静注して、8週後に観察すると全身に驚くほどたくさん分布するのを見てたので、あっそうという感じなのですが、前段の株細胞を樹立したというところはすごいです。

私が論文にもならないながら似たようなデータを持っており、このグループがNature articleに発表することになった根本的な違いはセルラインの確立をしてからなのか、適当に打ってしまうのかという出発点の違いにつきます。私のは砂上の楼閣で彼らのはきっちり土台ができた上での研究であるといえます。とはいえ、この土台は細胞培養が本職ではない私には神の啓示があったとしても、もなかなかできなかったに違いありません。培養液にLIF, EGF, PDGF-BBをいれてFNコートのディッシュに撒くのだそうです。私なら、成功するかどうかわからないままに、これらの濃度や組み合わせを考えられるのかと自問すると、答えは明らかにNoですね。参りました!

この幹細胞株を彼らはMAPCと呼んでいます。特徴はc-kitやMHCのクラスIやII、CD45などが軒並みネガであることです。これって(ヘキストなどで染まらない)SPフラクションの細胞とかさならならないんでしょうか?

この細胞をES細胞のようにブラスシストに注入する(ふつうは10−12コをいれ、1コを入れても効率は下がるがキメラ作製は可能)ことによりキメラを作製しています。体のほとんどの細胞に分化するそうで、精巣内にも分布している書かれていますが、子孫になるのかどうかはまだ不明だそうです。(マウスで子供まで待ってると時間がかかりますからねえ。待てなかったんでしょうねえ。)でもおそらく今頃はわかってるでしょうね。

このMAPCはヒト、マウス、ラットといろんな種類からとれ書いてあるのでES細胞の樹立程度の難度で可能なのかもしれません。そうだとすると私たち各自のMAPCを樹立することにより、相同組換えで遺伝病を治療したり、心筋梗塞などになっても幹細胞の移植で助かるということになるのでしょうか?そういう夢を与えてくれるというだけでもインパクトは絶大ですね。

最近CNSに2年半で17報ってヒトの話があったので、この論文も読む前はちょっと疑ってたのですが、これは間違いないと思いました。追試の成功が待たれます。

From: べ, Date: 020622  

 


Subject:RE: 骨髄からES細胞様のMAPC細胞株が樹立できる
こんにちは。昨年まで岡部研に所属していました奥野です。 あまり受精に関係の無い内容ですが、ちょっと思うところがあったので書き込ませていただきます。

先日、成体組織幹細胞の多分化能は、実は,細胞融合によるものである可能性を提示する内容の論文がAustin G Smith [Edinburgh大]、Naohiro Teradaら(Florida大)により出されていました。

Terada, N. et al. Bone marrow cells adopt phenotype of other cells by spontaneous cell fusion. Nature AOP (2002). Ying, Q-L., Nichols, J., Evans, E. & Smith, A. G. Changing potency by spontaneous fusion. Nature AOP (2002).

簡単に要約すると、成体マウス脳から調製した神経幹細胞と胚性幹細胞(ES細胞)をin vitro培養皿中で一緒に培養することで、神経幹細胞がES細胞と自発的に融合したハイブリッド細胞になることを明示した。1万から10万個の細胞あたりわずか1個程度という低い頻度ではあるが、ここで生じたハイブリッド細胞は4倍体となり、神経幹細胞のマーカーとES細胞のマーカーを併せ持つ性質をもつようになる。そして、この融合細胞はES細胞と同様、筋肉や神経など様々な細胞系譜への分化能、及びin vivoキメラ形成能をも有していた。 後者はGFPトランスジェニックマウス由来の骨髄細胞とES細胞を共培養した結果、細胞融合によってGFP陽性のES細胞の性質を有するハイブリッド細胞(4倍体)が生じたといった感じです。

このことで成体幹細胞の分化転換についてはかなり疑問が持たれていたようです。実際、GFP発現神経幹細胞もキメラにすると全身においてGFP発現細胞が観察される、などの報告もあったりします。この場合、vivoだけの評価では非常に怪しいと考えられましたが、今回の報告ではvivoだけでなくvitroでもこの株化細胞のみの培養で分化が確認できているので、心配はなさそうですね。これで倫理的に難しいESではなく組織幹細胞の利用への試みがますます面白くなってきた気がします。

あと、SP画分との比較ですが、SPではCD34は+/-であったり、他にもかなりアバウトなのである程度オーバーラップはしても一致はしないと思います。というかこの報告で集めている画分はこれまでに言われていた組合せとはかなり異なっているようなので、ちょっと戸惑っています。どういう根拠でこの画分に行き着いたのやら?

なんにせよ、同時に掲載されたES細胞から誘導されたドパミン産生細胞によるパーキンソンモデルに対する効果の報告を含め、再生の分野はますます競争が盛んになりそうですね。

From: おくの, Date: 020625  

 


Subject:RE: 骨髄からES細胞様のMAPC細胞株が樹立できる
5年前のこのスレッドの最初に

【最近CNSに2年半で17報ってヒトの話があったので、この論文も読む前はちょっと疑ってたのですが、これは間違いないと思いました。追試の成功が待たれます。 】

と書いたのですが、そのごうちの研究室でもT念くんが執念をもやして良く増える細胞株をとったのですが、マルチポテンシーを証明できないままで、残念ながら修士論文は別のテーマで書いてもらいました。その後追試に成功した話を聞いてなかったのですが、なんと今週号のサイエンスにVERFAILLIEさんの大きな顔写真がのっていました。Nにつかったのと同じFACSの図が全く別の実験として別の論文に掲載されていたんだそうです。 http://www.sciencemag.org/cgi/content/summary/315/5816/1207a

ありゃ〜!本人は善意の細かいミス(?)で論文の内容そのものに影響はない。読者が判断することだと主張しているようです。調査委員会は、メチャ怪しいということですが、fraudとは決め付けられないといっているようです。T念くん、ご苦労さまでした!

From: べ, Date: 070315  

 


Subject:RE: 骨髄からES細胞様のMAPC細胞株が樹立できる
Verfaillieさんの論文に関する話題の続きというか、ちょっと関連情報です。

今日、京大医学部の出澤真理先生の講演を聴くチャンスがありました。出澤先生はVerfaillieさんの論文が出る前から骨髄細胞の培養をやられている先生ですが、やはりVerfaillieさんの培養を追試できなかったということです。アメリカでも誰も追試できなかったとも教えていただきました。出澤先生がVerfaillieさんから聞いた話では、使用する血清が大切でNatureに載せた論文を書き終わったときにその仕事をしていたポスドクが去り、同時にロットが非常に大切であるが、いいロットの血清も丁度なくなったということなのだそうです。(私的には「う〜ん、参った!」ですねえ!)しかし、出澤先生は寛容な先生でそういうことも有り得るというお考えでした。

というのも出澤先生は血清のロットチェックをするとES用と銘打たれたもののなかから30にひとつとか、ひどいときには140にひとつというくらいしか当たりが取れないこともあるそうです。何を指標にロットチェックしているのかを尋ねたのですが、企業秘密でした!あちゃ〜!それはともかくVerfaillieさんがsuper血清をBingoしていたらあの結果も有り得たかもしれないというお考えのようです。

出澤先生のお仕事は、同じBMSでも濃く撒くという正反対のやり方で神経細胞や筋肉細胞を分化させる系を樹立しておられます。例えばシュワン細胞を脊損ラットの損傷部に移植すると神経の回復が見られるとか、筋ジスの犬に筋芽細胞を移植して治療するとか、ドパミンニューロンを作ってラットのパーキンソン氏病の症状が軽減されたとかそういう発表をされておられます。出澤先生の日本語の総説がたんぱく質・核酸・酵素の52巻、80ページ (2007)に載っています。

今日の出澤先生のお話を聞くと、まったくあてずっぽうですが、篠原先生がGS細胞からmGSを取ったように出澤先生の骨髄間質細胞(BMS)からも低いながら、ある確率でmBMSが取れてもいいような気がしてきました。もしとれたら卵なしでも、あるいは精巣摘出なしでもES様細胞が樹立できることになりますね。これなら男女平等なのでめでたしめでたしってことになりますね。ついでにVerfaillieさんの名誉も回復?

でも本当に回復と定義してよいのか?う〜ん!これはmBMSをとるよりも難しい問題かもしれませんね!

From: べ, Date: 070406  

 


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(クリックするときにはボタンの様子をよく見てください。クリックした後フリーズしたみたいになることがありますが、それでも処理は間違いなく進んでいます。今の世の中でこんな注意書きは滑稽ですが、3分まってから再度SpermEggの画面を開けなおしてください。それで投稿がおわっていることを確認できると思います。遅い反応でスイマセン!)