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【古典個展】立命館大教授・加地伸行 橋下プラン反対は大嘘
その昔、戦後の一時期、公務員の給与の支給が半月ごとだったことがあった。インフレ対策かなにかのためだったのだろう。
それを月1回に、すなわち月給制にもどすことになった。正常化である。
ところが、労働組合が反対した。その理由がふるっている。こうだ。
給料日の前日は、お金が少なくなって生活が苦しい。半月ごとの給与支給なので、半月ごとにその前日の1日分、生活が苦しい。だから月給制に変わると、給料日の前、合わせて連続2日間、生活が苦しくなるので反対、と。
しっかりしてくれよ、労組さん。それって単に生活に計画性がないというだけのことで、労働条件の問題ではないわな。
先日、橋下徹大阪府知事と府庁職員との対話集会があったとき、ある職員が「橋下さんは人として尊敬できない」ので働けないと罵(ののし)ったと伝えられている。
驚いた。公務員の組織は、ムラ共同体的な組織ではない。上司が尊敬できる人だから公務を行い、尊敬できないから公務を行えないなどと公言するような公務員は、公式に懲罰を加(くわ)うべし。
労組員が大好きな日本国憲法の第15条には「すべての公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」とあるぞ。上司は関係ない。
彼ら職員は、一部の大学教授といっしょになって、人件費削減になると、いい人材が府庁に集まらないと騒いで橋下プランに反対している。
これ大嘘(うそ)。府庁は給料が安いので余所(よそ)へ行く、という程度の者など、どこに求職しても採用されることのない〈低〉度の連中よ。
『論語』憲問(けんもん)篇にこうあるではないか。「士(し)たるに居(きょ)を懐(おも)えば(安楽な生活を思うような者は)、以(もっ)て士と為(な)すに足(た)らず」と。
大阪府民の橋下知事支持率は8割を超えている。福田康夫首相はさぞかし羨(うらや)ましかろう。しかし、それはタレント人気ではない。ここが肝腎(かんじん)。橋下氏がこれまでの府政の大嘘の皮を次々と引っ剥(ぱ)がしているからなのだ。
例えば、〈文化〉なるもの。上方演芸のために年間2億8000万円もの賃料を吉本興業に支払っていたとのこと。
そんな大金があるのなら、いま散逸(さんいつ)しつつある上方人(かみがたじん)の漢詩集(江戸から明治・大正)の収集に、年間その100分の1でも充(あ)ててこそ真の〈文化〉行政だ。
けれども、そうした文化行政はなかったので、心ある人が自腹を切って収集しているのが実情。でもそれでいいのだ。そういう民間の努力があって文化は生き残ってゆくのである。
上方演芸グループはなぜ行政にぶらさがるのか。大衆演芸ならそれらしく他人に頼らず自力で生きてゆけ。ストリートプレーヤーの逞(たくま)しさがない大衆演芸〈文化〉などつぶれてもかまわない。
月給2日前から生活が苦しいだの、上司が尊敬できないので仕事をしないだの、安給料だと人は集まらないだの、行政にぶらさがっての漫才だのと、よう言うわ。よう言わんわ。欠けているんですなあ。根本を見る目が。『論語』学而(がくじ)篇に曰(いわ)く「君子(くんし)は本(もと)を務(つと)む。本(もと)立(た)ちて道(みち)生(しょう)ず」と。(かじ のぶゆき)