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NHK受信料訴訟

 裁判は、受信料を拒否した東京都の視聴者2人に対し、NHKが東京簡裁を通じて2006年、それぞれ4万円余りの支払いを督促。2人が異議を申し立て、東京地裁での法律論争に発展した。視聴者側は、番組制作費詐取事件をはじめとする一連の不祥事や、NHK幹部が自民党政治家と面会後に従軍慰安婦の特集番組を大幅改編した問題などに反発して、NHKを見なくなり、受信料拒否に至ったと説明。支払いを強制するのは、思想・良心の自由を保障した憲法一九条などに反すると主張する。一方、NHK側は判例などを基に、放送法が番組の多様性や質を確保するため、広告収入ではなく受信料に支えられる公共放送を制度化したのは合理的で、憲法違反はないと反論している。

違憲、合憲争う展開 NHK受信料訴訟 憲法学者2人に聞く

2008年6月22日掲載)

 テレビを持っている人からNHKが受信料を強制的に徴収するのは、憲法違反か−。不祥事などを理由に受信料支払いを拒否した視聴者に、NHKが支払いを求めた民事訴訟が、受信料制度の違憲・合憲を争う異例の展開になっている。東京地裁は早ければ年内にも判決を言い渡す見通しで、今後の公共放送の在り方に影響を与えそうだ。争点を整理し、憲法学者2人に見解を聞いた。

 ■憲法学者2人に聞く

 ●土屋英雄・筑波大教授 支払い強制が問題だ
 受信料制度は、学校での君が代斉唱などと同様、強制になっているのが問題だ。
 放送法は例えば、NHKの設立目的を「豊かで、良い」番組を放送することと定めている。こうした規定に放送内容が沿っていないと視聴者が判断すれば、それは個人の思想・良心といえる。
 NHKにも番組編集の自由があるが、視聴者の思想・良心に反してまで受信料を義務付けることは許されず、拒否できるはずだ。
 受信料を支払いたくないとテレビを手放せば、民放も視聴できず知る権利のストレートな侵害になる。NHKだけ見ないという情報選択の自己決定権も、憲法が保障する幸福追求権に含まれる。
 今はいろんなメディアがある。NHKしかなかった約50年前とは違う。みんなから金を取って放送する公共放送の存在意義は薄れている。(電波に暗号をかける「スクランブル化」により)見たい人だけが支払うようにするべきだ。
 どうしても公共放送にこだわるなら、NHKの経営委員らは選挙で決めるなど、視聴者が法的に参加できるシステムをつくる必要がある。現行法では経営委員人事とNHK予算は首相や国会が任命・承認することになっているが、視聴者と乖離(かいり)している。「発言権なければ受信料なし」が原則だと思う。
   ×     ×   

 ▼つちや・ひでお 48年福岡県生まれ。憲法学専攻。著書に「NHK受信料は拒否できるのか」など。

 ●長谷部恭男・東京大教授 社会的役割を果たす
 NHKが果たしている社会的役割を考えると、受信料制度を違憲というのは難しいと思う。
 広告収入に依存する民放の番組は、どうしても最大公約数的な内容に画一化してしまう。その弊害を抑え、より多様な番組を多くの視聴者に供給するために、受信料を財源にした公共放送がある。
 NHKの質の高い番組は民放にも影響を与えているから、NHKを見ないで民放ばかり見ている人も、間接的な便益を享受しているといえる。
 受信料の強制は経済的自由に対する法的規制だが、こうした公益目的の規制については、最高裁も立法府の裁量を広く認めている。
 NHKの放送は公共サービスなので、個別の視聴者の意向には応じられない。応じれば、放送の自由との関係で憲法問題になりかねない。ただ、視聴者の声は経営委員会を通じて反映される形になっている。
 NHKに政治家が関与するのは良くないというなら、予算は国会ではなく経営委が承認することにしたらどうか。
 民主社会を維持するには、公共放送はあった方がよい。しかし、インターネットの普及などで、社会全体に向けたテレビを人々が見なくなり、自分の欲しい情報だけを取りにいくようになれば、NHKが生き残るのは困難だろう。
   ×     ×   

 ▼はせべ・やすお 56年広島県生まれ。憲法学専攻。著書に「テレビの憲法理論」など。

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