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安心が医師集める

2008年06月23日

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高齢の女性患者を診察する大見関さん(右)と松田和哉さん(左)。「研修先に選んでよかった」と口をそろえる=いなべ市北勢町阿下喜

◇◆いなべ総合病院 地域も後押し◆◇

 深刻化する医師不足、患者の増加……。県内各地の救急病院が医療崩壊の危機にさらされるなか、若手医師に人気の病院がある。いなべ市北勢町のいなべ総合病院。岐阜・滋賀県境に近い山間部にあるにもかかわらず、研修医は「やりがいがあって働きやすい」と口をそろえる。その理由を探ってみると、昨今の医師不足問題の背景が垣間見えて来た。(小若理恵)

◆「じっくり診療」「相談しやすい」医学生に評判◆

 同病院は18科220床で、中規模の2次救急病院。民間経営ながら同市や近隣自治体が財政支援する公的病院と位置づけられている。

 患者は同市内だけでなく岐阜県や四日市市、桑名市、菰野町、東員町などからも訪れる。昨年は桑名市消防本部管内の救急患者の受け入れが最多になった。患者が増えても診療がパンクしないのは、医師、研修医の数が増えているからだ。02年度に24人だった医師の数は今年度42人となり、そのうち研修医は受け入れを始めた05年度の2人から7人に増えた。

◆出生数4年で1.8倍◆

 県内各地の病院で、とりわけ医師不足が深刻といわれる産婦人科、小児科医をみても、それぞれ3人の医師が常勤している。出産を控えた女性にも評判が良く、昨年の出生数は4年前の1・8倍にあたる約240人にのぼった。いなべ市全体の新生児約360人のうち、6割強が同病院で産声をあげた。

 今年4月に研修医になったばかりの大見関さん(25)は「基本的な医療を学べる」と、この病院を選んだ。

 「(医師が過不足なくそろっているので)忙しすぎず、初診から治療、退院まで1人の患者にじっくり向き合える。患者の数も一定程度多いから、いろいろな症例を勉強できるのもいい」

 同僚の松田和哉さん(28)も「もっと大きな病院だと先輩の先生方に顔を覚えてもらうのも大変。でも、ここは、みんなが自分を気にかけてくれて、相談しやすい雰囲気がある」。2人は「毎日やりがいがあります」と言い切る。

 県内では研修医の流出に歯止めがかからない。研修先を自由に選べるようになった新しい臨床研修制度のもと、三重大を選ぶ研修医は02年度の67人から07年度には9人に激減した。同大付属病院医局の医師不足を補うために、県内の地方病院から派遣医師を引き揚げた結果、さらに地域医療が疲弊する悪循環に陥っている。

 しかし、いなべ総合病院は以前からつながりがあった名古屋市立大から多くの医師が派遣されるため、人材は県内の農漁村部などにある病院より潤沢だ。責任が重い夜間の当直救急も、専門医の診察が必要であれば、各科の待機当番の医師にすぐ連絡できる態勢を敷いている。

 新しい臨床研修制度が始まって以降、へき地にある病院や忙しい病院などは敬遠されがち。しかし、いなべ総合病院は「安心して働けて、先輩からも丁寧に指導を受けられる」と、医学生の間で評判が広がり、研修先に選ぶ卒業生が増えているという。

◆ボランティア300人◆

 職場の円滑な人間関係や、地域での暮らしやすさも欠かせない。看護部長の伊藤恭子さん(52)は住民と職員とをつなぐ存在で、年に一度の病院祭を企画して院内を地域に開放。病院玄関で診療科を案内したり、敷地の草を取ったりするボランティアは300人に上り、若手医師らが地元の人と山歩きを楽しむなど交流も広がる。伊藤さんは「患者が増えて忙しくなっても『地域医療を守ってほしい』という住民の思いが直接伝わってくる分、医師の使命感も高い」と指摘する。

 いなべ市は今年度から、研修医のワンルーム寮や院内託児所の運営費約1185万円といった病院を後押しする予算を計上した。

 水野章院長(59)は「行政も一緒に、地域ぐるみで病院を支えようという意識が高い」と喜ぶ。そして「医者が集まれば優秀な人材もそろうことになり、様ざまな症状の患者に丁寧に対応できる」と話している。

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