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事件:解剖医が足りない/九州・山口で15人/佐賀「ゼロ」全国唯一

 変死体の死因解明のため捜査当局の依頼で実施する法医解剖(司法解剖や行政解剖)が、九州・山口8県(沖縄除く)で昨年、変死体総数(1万6903体)の4・38%しか実施されていなかったことが毎日新聞の調査でわかった。背景には深刻な解剖医不足があり、佐賀は今年1月から全国唯一の「解剖医ゼロ」の県になった。「変死体には事件性が潜むケースも多く、病原菌などの発見も遅れる」と、専門家は警鐘を鳴らしている。

 8県の07年の変死体数と法医解剖件数は▽福岡5307体・121件▽熊本2150体・128件▽鹿児島2149体・63件▽山口1992体・153件▽長崎1628体・63件▽宮崎1440体・82件▽大分1238体・84件▽佐賀999体・47件。

 全国で発見された変死体のうち法医解剖されたのは約1万5000体(9・5%)。8県の中で最高は山口の7・6%。福岡(2・2%)や鹿児島(2・9%)は極端に低い。また、過去5年間で8県とも変死体数が1割以上増加したが、佐賀、福岡両県では法医解剖件数が減っている。

 解剖は、大学の法医学教室の教授や、都市部では監察医などが担当する。しかし全国に約130人しかおらず、九州・山口では計15人。佐賀は昨年末、担当教授が他県の大学に転出し「ゼロ」に。最多の福岡でも5人で、長崎、熊本、宮崎、鹿児島は2人。大分、山口は1人だ。日本法医学会は検討委員会を設けて全国的な解剖医不足の現状を分析し、欧米並みの解剖率20%を目標にした国への要望活動を強化する方針だ。

 日本法医学会の中園一郎理事長(長崎大医学部教授)の話 大相撲の力士急死事件や新型インフルエンザの懸念などから死因究明の重要性は高まっている。ウイルス性疾患の拡大などを防ぐためにも、死因究明の体制強化は急務だ。

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 事件捜査に影響が懸念される解剖医不足。交通事故や自殺を装った事件は後を絶たず、偽装を見破る鍵は解剖にあるとも言える。遺体に隠された“真相”を見逃せば事件は葬り去られることになりかねず、解剖医がいなくなった佐賀県警は「捜査ミスにつながらなければいいが」と危機感を募らせている。

 佐賀県では県内で変死体が見つかると、県警が福岡県や長崎県の大学医学部に解剖を依頼しているが、最も近い福岡県の久留米大でも搬送だけで約45分かかる。佐賀大はホームページで法医学教授を公募するなどして、後任を探しているが、まだ決まっていない。県警捜査一課幹部は「1日も早く決まってほしい」と切望する。

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 元保護司の父親(76)=公判前整理手続き中=が交通事故を装って三男(当時26歳)を殺したとされる長崎県大村市の保険金殺人事件。三男は03年7月、市内の道路脇の側溝に体がはさまった状態で倒れており、死因は水死とされた。父親らの逮捕は4年後の昨年7月。父親は全面否認しているが「大量の睡眠薬を飲ませた」との証言があり、解剖していれば捜査の進展が異なった可能性もある。

 また福岡・中洲の元スナックママ、高橋裕子被告(52)=1審・無期懲役、控訴中=が94年と00年に保険金目的で元夫2人を殺害したとされる事件でも、解剖していれば事件発覚がもっと早かったのではないかとみられるケースだ。県警は当初、94年の被害男性が多額の借金を抱え、遺書と思われるメモもあったことなどから、自殺と判断し解剖しなかった。捜査幹部は「自殺とするには刃物の刺し傷などに不自然な点が多く、司法解剖すべきだった」と話す。

【阿部弘賢、和田武士、高芝菜穂子】

2008年6月23日

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