会社法で認められた無議決権株や多議決権株などの種類株を、上場会社が発行したり、新規上場したりする際のルールはどうあるべきか。東京証券取引所は企業の多様な資金調達を可能にする種類株の上場規則を決定し、金融庁の認可を得て7月にも申請の受け付けを開始する。
出資と支配が比例するのが株式会社の原則だが、種類株は少ない出資で経営支配を可能にする手段だ。種類株には、議決権はない代わりに業績連動の優先配当を受ける権利がある無議決権株や、普通株より議決権の多い多議決権株などがある。創業者など普通株の支配的株主は、無議決権株の発行で支配権を希薄化させずに資金調達することができる。
東証は株主の権利を著しく制限する黄金株(拒否権株)を国策上の要請などの例外を除いて禁止しているが、同様の理由で上場会社が新たに多議決権株を発行することも禁止する。ただ、米国でグーグルなどは創業者が多議決権株を持ったまま上場しているように、多議決権株を発行済みの会社の普通株の新規上場は認める。無議決権株については、上場会社による新たな発行のほか、無議決権株だけの新規上場も認める。
一般に関心が高い無議決権株は伊藤園が従来ルールで発行しており、株主総会で発行準備の定款変更を予定している上場会社もあるようだ。無議決権株だけの上場は、Jパワーと投資ファンドの対立のようなケースを避けるため、民営化企業の導入が考えられる。また、大小を問わず、上場をためらっている同族会社などの株式公開を促す効果もある。
株主の権利に格差を設ける種類株は買収防衛策としても注目されている。投資家の評価(株価)でチェックされるとはいえ、会社法が無議決権株の発行数の上限を普通株以下にしているのは出資と支配の乖離(かいり)の拡大を防ぐためだろう。東証は、支配株主が変わった時などに無議決権株を継続するかどうかを見直したり、無議決権株の有効期間を事前に決めて普通株への転換条件を明示したりするなど、投資家保護の仕組みや情報開示を義務づける。
種類株は、議決権はなくても高い配当を期待する個人投資家などの選択肢を広げる意味もある。だが、欧米では歴史のある制度も安易な使われ方をすれば、経営の規律を緩め、市場を混乱させる恐れがある。ライブドアの大幅株式分割など制度の乱用の前例もある。東証の上場規則で十分か、強制力や罰則を伴う法令化の必要はないかを含め、新ルールの適正な運用と監視が欠かせない。