政府が大学医学部の定員削減を定めた閣議決定を撤回し、増員を決めたことは当然である。特に病院の医師不足で深刻な医療崩壊を招いただけに遅すぎたぐらいだ。早急に具体化を図る必要がある。
医師養成数について政府は一九八二年、削減することを閣議決定した。九〇年代に入って既に離島や僻地(へきち)などでの医師不足が指摘されていたのに、医療費抑制の一環として九七年の閣議で削減方針を再度駄目押しする過ちを犯した。
この結果、人口千人当たりの医師数は二・〇人とベルギーの四・〇人、独仏やスウェーデンなどの三・四人をはるかに下回り、経済協力開発機構(OECD)の中で二十七位(二〇〇四年)にまで下がってしまった。
過度な医療費抑制策が招いた結果を真摯(しんし)に反省すべきだ。
具体的にいつからどれくらい定員枠を広げるのかなどを早急に詰め、実行してもらいたい。
政府が医師養成の増員へ方針転換したのはいいが、一人前の医師が育つのに十年以上かかるといわれているだけに、すぐに医師不足が解消するわけではない。
さらに、養成数を増やしても、その分が将来、離島や僻地など地方へ赴くとは限らない。
医師養成数の増加という長期的な政策とは別に、当面の対策も練り直さなければならない。
現在でも医師数は毎年四千人ほど増えているが、それでも地方の医師不足が深刻化しているのは、医師が都市に集中するためだ。
地方に赴任しやすくするには、関連する医療機関同士で交代制を敷き、地方勤務を終えたあとの復帰先を確保することが必要だ。離島を多く抱える沖縄県は以前から県立中部病院を中心に交代勤務体制を整えており、参考になる。
医師が病院勤務をやめ、開業する背景には病院勤務の厳しい労働環境がある。この状況を正すには、開業医寄りの診療報酬を病院重視の体系に改めなければならない。四月の診療報酬改定で多少改善されたが、まだ不十分だ。
医療従事者の業務範囲の見直しも必要だ。例えば能力の高い看護師・助産師の裁量権を拡大し、血液検査など医療行為の一部を任せるようにすれば、医師の負担は軽減され、難しい症例に専念でき、医療の質の向上にもなる。
看護師など他の医療従事者も過酷な労働に耐えかねて離職が後を絶たない。医師同様に労働環境や待遇の改善を図り、国民が安心できる医療を目指したい。
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