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【主張】著作権とネット 「公正利用」の導入が必要
政府の知的財産戦略本部は平成20年度の「知的財産推進計画2008」を決定した。この中で、変化が著しいデジタル・ネット社会に適応するため、著作権法の見直しを打ち出している。
特に注目したいのは、教育や批評、研究など公正な理由があれば無許可で著作物が利用できるようにする「フェアユース(公正利用)」規定の導入について、今年度中に結論を出す方針を明示した点である。
人々の創造的な活動を支援し、その独占的な権利を保護する著作権法が重要なのはいうまでもない。しかし、地球規模で国内外の情報が融合する時代に日本の著作権法は合わなくなっている。
日本は欧米に比べてインターネット上の知的資産の蓄積が少ないといわれる。このネット環境を変え、著作権を時代に合致したものにするためにも、フェアユースの導入は必要であろう。
現行の著作権法は、個人での利用など一部の例外を除けば、他人の著作物の無断コピーやネット上への配信などを原則として禁止している。著作物の利用には、その度に権利者の許諾を得るよう求められる。
このため、現実と合わない不都合な状況も起きる。ヤフーやグーグルなど検索サービス業者がさまざまなホームページの情報を収集し蓄積する行為が、日本では著作権法違反になってしまう。こうしたことから検索サービス業者は海外に設置したサーバーに情報を蓄積して、形式上、日本の著作権に抵触しないようにしている。
フェアユースの規定ができれば、これらの問題が解決する。図書館や大学の研究成果の二次利用なども促され、ネット上の知財が拡大する。例えば、国立国会図書館の880万冊の蔵書についても、図書館が権利者の許諾なしにデジタル化し、国民はネット上で利用できるようになる。
問題はフェアユースかどうかの線引きが難しい点である。この規定がある米国でも時々訴訟が起きる。「権利者の利益を不当に害さない」との条件に加え、トラブルに備えて公正な利用の具体的な指針を工夫する必要があろう。
日進月歩のネット社会において大事なのは、公共の利益と権利者保護のバランスである。著作権保護の範囲は、国全体の知財の蓄積を後押しする戦略の中で考えることが重要である。