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社説2 行方定まらぬEU新条約(6/23)

 こんどこそと思われていた欧州統合の基本文書であるリスボン条約の批准が危うくなってきた。今月12日にアイルランドの国民投票で受け入れが否決され、欧州連合(EU)首脳が先週末、協議したが具体的な対応については再協議することだけを決めた。

 リスボン条約は来年1月発効を想定していたが、不可能になった。EUの活動にただちに大きな影響が出るわけではないが、基本文書をめぐるごたごたが徐々にボディーブローのように効いてくる可能性はある。

 リスボン条約は昨年調印された。機構改革、政策決定過程の改革を盛り込んでいる。EUは2005年に憲法条約の批准を進めたが、フランス、オランダの国民投票で否決され葬り去られた。そこで「憲法」という言葉を使わないなど工夫し作り直したのだが、今度はアイルランドが否決した。

 否決の基本的な理由はフランス、オランダの場合と同様、国の主権がないがしろにされると心配したことにあるようだ。この条約がほかのEU関連文書同様、長文で小難しい法律用語をちりばめ、一般市民には理解しにくかったという問題点も指摘されている。

 官僚的にいかに優れた文書でも国民の多くの理解を得るにはさらに工夫する必要があったようだ。

 リスボン条約の発効にはEUに加盟している27カ国すべての国の批准が必要だ。アイルランドが否決したことでこの条約も葬り去られたとの見方もあるが、EU首脳会議はあきらめず、この条約の存続をめざすことを確認した。

 7月から議長国となるフランスのサルコジ大統領はアイルランド以外に批准していない7カ国が批准作業を続けることに期待を表明した。それが完了すればアイルランドだけが批准しないということになり、再投票への圧力となる。

 だが、いかに小国といえども国民投票の結果は重い。少なくともすぐに再投票というわけにはいかないだろう。それにアイルランドの否決を受けてチェコでも批准が危うくなってきたともいわれる。EU首脳会議は10月に改めて対応を協議するが、事態は楽観を許さないようだ。

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