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社説:医師の増員 舛添さん、今度こそ成果を

 厚生労働省が「安心と希望の医療確保ビジョン」をまとめ、医師不足の解消に大きくかじを切った。82年に閣議決定した「医師数の抑制」方針を転換するものだ。医師増員を阻んでいた壁を崩すことを意味し、国がようやく医師不足対策に取り組む姿勢を示したものと受け止めたい。同時に、政府の対応遅れが医療崩壊を招いたことも指摘しておきたい。

 医師が不足している背景には(1)政府が医師数の抑制方針を変えなかった(2)04年の新人医師の臨床研修義務化によって大学病院が人手不足になり、従来派遣していた病院から医師を引き揚げた(3)病院勤務医の過重労働(4)女性医師の離職(5)医療紛争の増加(6)病院勤務から開業医への転身--など、さまざまな理由が絡み合っている。

 大学医学部の定員を増やす方針を決めても、医師の養成に10年はかかるため、当面の医師不足に即効性がない。しかし、足元で起きている医療崩壊への対応は待ったなしだ。このため、短期と中長期の取り組みが必要になる。

 まず短期の対策だが、医師不足の解消には大学医局と医師会の全面的な協力が不可欠だ。医師が退職し産科などが閉鎖に追い込まれているケースでは、医師の派遣などを積極的に行って地域医療の崩壊を防ぐことが必要だ。勤務医を辞めて都会で開業する医師が増えており、地域や診療科で医師の偏在が指摘されている。これを解消するためには、医師会の強いリーダーシップで対応するしかない。開業医の適正な配置計画を医師の団体が自主的に作り、国や地方自治体とも協議して実行していくことが必要だ。

 中長期の最大の課題は医学部の定員増で医師をどれくらい増やすかだ。厚労省の「医師増員」方針を受けて、文部科学省や財務省などと早急に具体策を詰めてもらいたい。医療費抑制はすでに限界に達しており、医学部の定員増に反対する国民は少ないだろう。

 小泉純一郎元首相の改革路線によって、医療費抑制が図られたが、その矛盾が医療崩壊という形で噴き出してきた。日本の医師数(人口比)は経済協力開発機構(OECD)諸国の中では少ない。少ない医師が効率的な医療を行い、皆保険制度を支えてきたのだが、医療費抑制策がすでに限界に達したことは明らかだ。

 地域医療が崩壊すれば、住民が困る。保険証1枚で、いつでも、どこでも医療サービスが受けられるという国民皆保険制度を守るためにも、医師不足の解消を急ぐべきだ。

 厚労省が示した新ビジョンには「安心と希望の医療確保」というタイトルが付いている。ぜひ、そうあってほしい。年金記録漏れや後期高齢者医療制度で批判を浴びてきた舛添要一厚労相には、今度こそ成果を出してもらいたい。

毎日新聞 2008年6月23日 東京朝刊

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