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【神奈川】

“久住流の心” 学生に伝授 難病ALSと闘いながらユーザー本位の福祉機器製作

2008年6月20日

ALS患者の意思伝達器具づくりで、熱弁をふるう久住純司さん(右)=いずれも藤沢市で

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 学生たちが福祉器具づくりに励んでいる湘南工科大学工学部(藤沢市)で先ごろ、自ら難病の「筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症(ALS)」と闘いながら患者のコミュニケーション機器をつくり続けている久住純司さん(55)=大阪府和泉市=を招き、特別講義が行われた。久住さんは「おもちゃ感覚で扱える福祉具づくり」などの言葉で、自由な発想とユーザー本位の快適性を大切にする“久住流の心”を伝授した。 (加藤木信夫)

 久住さんは、数年前にALS告知を受けるまで電子機器会社で技術者をしており、その経験を福祉器具づくりに生かしている。特別講義は十三日にあり、久住さんは車いすで教壇に立ち、「口文字、空文字、舌打ち言葉、目線、表情筋…患者の応答法はさまざま。それをいかに早く、患者にとって快適な形で再現するか。高価な機器がいいとは限らない」と熱弁をふるった。

 わずかな握力で扱える、スポイトを改造したパソコンマウスや、ほおの筋肉の収縮をマウス代わりにして文字を打ち込む工夫をした機器も紹介。百円ショップの材料で作れるものもたくさんあり、聴講した学生から感嘆の声があがった。

 久住さんは「高価な伝達機器は、使いこなせない患者に『もうダメだ』と落胆を与えかねない。おもちゃ感覚で扱える福祉具づくり。学生さんに、いろいろな発想を駆使して生み出していただきたい」と話していた。

 同学部では、学生たちが、ほとんど体を動かせない重度障害者の声を通所施設まで出向いて聞き取り、要望に沿った福祉器具づくりに励んでいる。この取り組みを評価した久住さん、ALS患者を支援する立命館大学生存学研究センターなどが、湘南工科大に共同研究を申し入れた。

 特別講義もこの一環で、企画した同大関係者は「久住さんが動けなくなれば、こうした機器をつくる人がいなくなる。工学技術者の卵である学生たちに、久住さんの技術を伝える場を設けたかった」と、学生たちの反応の素晴らしさを見て、感無量の様子だった。

<ALS> 感覚や知能ははっきりしたまま、筋肉の萎縮が全身に広がる原因不明の難病。患者の半数ほどは発症後3−5年で呼吸筋が麻痺(まひ)して自発呼吸ができなくなる。延命措置として人工呼吸器をつけても麻痺は進行し、末期には眼球運動も確認できなくなる。有効な治療法は確立されていない。日本には約8000人の患者がいるとされる。

 

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