長崎空港売店(2007年4月・筆者撮影)
何らかの政治的圧力で大捜査に
約40名もの捜査員を動員し、10時間にもおよぶ強制捜査の翌21日、星川淳(グリーンピース・ジャパン事務局長)氏、海渡雄一弁護士(東京共同法律事務所)はグリーンピース・ジャパン事務所で記者会見し、一連の経緯などを明らかにした。
そもそも逮捕された佐藤潤一さんと鈴木徹さんは、6月5日に東京地検と青森県警に上申書を提出し、窃盗容疑について詳細を明らかにしていた。「証拠品」もすでに東京地検に提出している。船員たちの横領問題についても、担当検事は立件に前向きで熱心だった。
ところが何らかの大きな政治的圧力がかかり、横領問題は不起訴、グリーンピースは公安による<嫌がらせ>家宅捜索を10時間にもわたって受け、2人は出頭直前に逮捕された。家宅捜査には3人のスタッフがなかば強制的に立ち合わされ、グリーンピースが20日に予定していた記者会見は中止を余儀なくされた。
合同捜査本部は6台のパソコンと80点の書類を押収、窃盗などの容疑と直接関係しない物まで持っていった。東京地検に2人が提出した横領問題の告発状や、東京地検と青森県警に出した上申書まで持って行った。すでに出しているものを押収してどうする。
海渡弁護士が21日に語ったように、2人の逮捕や、グリーンピース・ジャパン事務所、スタッフ自宅の家宅捜査などはその必要性が疑わしい。2人に逃亡や証拠隠滅の恐れもない。横領鯨肉<プレミアくじら>を売って儲けたわけでもなく、窃盗罪が成立するかどうかも疑わしい(将来、いわゆる不当判決は出るのかもしれないので私も気が抜けない)。
より問題なのは横領鯨肉<プレミアくじら>の方だ。グリーンピース・ジャパンが証拠品を確保するまで、水産庁は「お土産」の慣行すら把握していなかった。問題発覚後も、水産庁、日本鯨類研究所、共同船舶の説明は2転3転する。3者の方に家宅捜索・強制捜査が必要だったと思うのは筆者だけだろうか。
問題発覚以後、さまざまな圧力にも関わらず、グリーンピース・ジャパンへの情報提供(内部告発)はつづいている。日本の調査捕鯨は、南氷洋に鯨肉を捨て、クジラの病変をロクに調べず、クジラの解体スタッフは横領鯨肉<プレミアくじら>で御殿を建てるという。問題の幕引きを許してはならない。
【私は、今回のことを機に私たち日本人がこの調査捕鯨について冷静に考え直すきっかけになってほしいと思っています。
確かに、捕鯨問題は医療制度などに比べて一般的に語られる問題ではありません。そして語られるときには、「西洋人に、クジラを食べるななんて言われたくない」「捕鯨は日本の文化だ」という安易な議論になりがちです。
そんな単純化された議論の影で、腐敗が居心地良く育つ土壌ができてしまっていたのではないでしょうか?
私たちは、納税者として、調査捕鯨に貴重な税金を使う必要があるかどうかを国内問題として考えるべきだと思います。ましてや一部の人間が得をするだけの事業です。】
グリーンピース・ジャパン 佐藤潤一
筆者の感想
そもそも日本の公安警察は、共産党やNPO、NGOなどへの監視がひどすぎ、関西ではホームレス支援の団体関係者の不当逮捕が後を絶たない。今回の強制捜査でも、個人情報の悪用などが懸念される。
こんな馬鹿げた非民主主義がまかり通っているのは、OECD加盟国では米国と日本ぐらいではないのか。批判しない多くのマスコミや国民も良くない。たとえば、有害物質を運搬するトラックの運行を阻止しようとして道に横たわったら道路交通法違反なのか、自然破壊の公共事業を阻止しようとして海に入ったら港湾法違反なのか――。
もちろん、官憲は法を悪用して抗議を弾圧することができる。しかしそのような、非暴力直接行動への弾圧は黒人公民権運動以後、全世界が眉をひそめるようになった。ところが日本ではよりによって、少なからぬ市民がグリーンピース・ジャパンの証拠確保を盗みだ盗みだと騒ぐ。一部週刊誌も同様だ。
週刊誌といえば、私が雑誌社に勤めていた1990年代の後半、「お泊まり愛」帰途の撮影のため、華やかなりし頃の写真週刊誌のカメラマンは、年に5人は不法侵入で現行犯逮捕されていただろう。それらの事件と比べても、今回のグリーンピース・ジャパンへの捜査と報道ぶりは異常だ。
西濃運輸の営業所と、芸能人の隣家では建造物の性質も大きく異なる。芸能スキャンダルと調査捕鯨疑惑の真相究明では公益度も違う。芸能人のプライバシーを侵害するマスコミや読者に、グリーンピース・ジャパンを責める資格はないと私は思う。
IWCに佐藤潤一さんを行かせたくなかった
日本国の中にはごく少数、調査捕鯨を継続することで私腹を肥やせる人がいる。人数は少なくても、握っている政治力は大きい。彼らが佐藤潤一さんを、チリのサンチャゴで行われているIWC(国際捕鯨委員会)の総会に行かせたくなかったのだろう。佐藤さんをチリに行かせない、というタイミングでの逮捕だったのだ。佐藤さんは例年、IWC総会の時々刻々を詳細にWebに報告していた。今年は彼のレポートが読めないことが、1人の市民として残念でならない。
日本社会は長年、市民の寄付は共同募金とお祭り、市区町村にのみに集中、法整備の遅れも手伝って、NPO・NGOなど市民社会の育成を怠ってきた。とくにグリーンピースなど、アドボカシー系と総称される告発やキャンペーン、研究や調査を行う団体の育成が甚だしく遅れている。長年、NPO・NGOなど市民社会をうろうろしてきた筆者は、専門用語の多さや概念の複雑さなど、ひろく共感が拡がらない原因は市民社会の側にもあると考えないこともない。
しかし、こと捕鯨問題を中心に、多くの日本人のメディアリテラシーと、マスコミ報道のありかたは、総体として、官に大甘、NPO・NGOなどに厳しすぎる。グリーンピースを環境テロリストと信じて疑わない哀れなご仁も少なくないが、それは外国では通用しない。グリーンピースは、ガンジーやキング牧師に連なる、非暴力直接行動の伝統に連なる。抗議しなければ、政府などの横暴・暴走は止まらず、社会は良くならない。
いちどだまされたと思って、
BBCのWeb動画を見て欲しい。グリーンピースの船に同乗した記者の撮ったものだ。これを見れば、日本政府の調査捕鯨と、グリーンピース、どちらが暴力なのかは明らかではないか。捕鯨抗議への放水は、黒人公民権運動への放水を思い出させる。あわれ日本のマスコミと人々は真実を知らない。多くの人は知ろうともしない。
市民一人一人が目覚め、メディアリテラシーを向上させ、NPO・NGOを育て、マスコミを含む政官財を見張り続けない限り、この国と社会は良くならない。自戒の念としたい。
長崎空港売店(2007年4月・筆者撮影)
資料:グリーンピース・ジャパン職員2名の逮捕についてのご報告
サポーターの皆さま、関連NGOほか諸団体の皆さま、そしてグリーンピースの活動に関心を寄せてくださるすべての方々に、ご心配をおかけして申し訳ありません。6月20日午後6時現在、なおも事務所の家宅捜索が続いており、WEBやメールでのお知らせが遅れてしまいました。
本日、グリーンピース・ジャパンの職員2名、佐藤潤一と鈴木徹が、青森県警と警視庁公安部によって逮捕されました。去る5月15日に、グリーンピース・ジャパンが東京地方検察庁に告発した調査捕鯨鯨肉の業務上横領について、その最大の証拠物件である鯨肉1箱(23.5Kg)を、西濃運輸の配送所から無断で持ち出したとの容疑です。
この件に関しては、佐藤、鈴木両名とも、すでに詳細な事実関係を記した上申書を作成して東京地検に提出し、青森県警にも写しを送付しており、さらに関係者はいつでも出頭に応じると伝えてありました。グリーンピース・ジャパン職員が盗んだとされる鯨肉は、業務上横領の証拠として東京地検に提出し、現在も同地検に保管されています。したがって逮捕された2名については、逃亡の恐れも証拠隠滅の恐れもありません。また、グリーンピース・ジャパンも組織として、捜査には全面的に協力する旨を表明してきました。
にもかかわらず本日、2名が逮捕されたことは極めて遺憾であり、不要かつ不当な逮捕に強く抗議します。
いっぽう、調査捕鯨鯨肉の業務上横領についても本日、東京地検が横領の嫌疑なしとして不起訴処分を決定しました。しかし昨日、逮捕されたうちの1名である海洋生態系問題担当部長の佐藤潤一は、新たな情報提供のため東京地検に出頭し、担当検事から調査続行の方針を聞いたばかりです。先週より続く「不起訴」報道と同様、結論が先にありきの、非常に不可解な決定と考えます。不起訴処分への不服申し立てを検討中です。
グリーンピース・ジャパンは、今後も調査捕鯨に関する問題を追及するとともに、不当に逮捕された2名の早期釈放を求めます。国内および国外からのご支援を、よろしくお願いいたします。
なお、家宅捜索が終わり次第、さらに詳細なご報告をいたします。
グリーンピース・ジャパン事務局長
星川 淳