社会保障費の削減を目玉に掲げる経済財政諮問会議の「骨太の方針2008」の閣議決定が今月中に迫るなか、障害者や非正規社員などで作る「反貧困ネットワーク」が19日、内閣府を訪れ「削減の撤回を求める」福田首相宛ての要望書を手渡した。
福田首相あての要望書を手渡す宇都宮弁護士(内閣府で筆者撮影)
社会保障費の削減をめぐっては「削減策は尽きた」と反対する声が与党からも上がるが、福田首相は毎年2200億円の圧縮(削減)を堅持する姿勢を崩していない。御手洗富士夫経団連会長ら経済財政諮問会議の民間委員もコスト抑制策を示して後押しする。
「これ以上削られると生きてゆけなくなる」。障害者、シングルマザー、非正規社員、高齢者など172団体と498人が「2200億円の削減の撤回を求める」要望書に名を連ねた。
「反貧困ネットワーク」代表の宇都宮健児弁護士はじめ7人が内閣府庁舎の面談室に入った。宇都宮弁護士は大臣官房総務課の山田哲範調査役に「『これ以上命の値段を値切らないよう』福田首相にお伝え下さい」と言いながら要望書を手渡した。
ここでマスコミはシャットアウトとなった。宇都宮弁護士によれば約20分間の面談の内容は次のようなものだった―
シングルマザーと障害者の代表は「これ以上(社会保障費を)削られるとますます不自由な生活になり、深刻な事態に陥ります。私たちの背後に何十万人〜何百万人がいるということを分かって下さい」と訴えた。
非正規社員のためのユニオンの書記長は「秋葉原通り魔事件の背景には、若い人の雇用不安があった」と話した。
内閣府の山田調査役は、1人1人の発言をメモにとり「大田(弘子・経済財政担当)大臣と舛添(要一・厚労)大臣に伝えます」と答えた。
社会保障費削減の撤回を求める要望書
内閣府での申し入れの後、日本弁護士会館で記者会見が行われた。
知的障害者の小田島榮一さんは、生活保護と障害年金がひと月16万円支給されていたのが10万円にまで減らされた。「厚労省は『働け働け』というが働けない人はどうするのか。もう食っていけないようになった」と話した。
重症筋無力症の山本創さんは次ぎのように語った――
「難病指定の見直し、生活保護基準の見直しなど私たちには削減の嵐が吹き続いた。難病患者は障害者年金の対象にもなりにくく、障害者認定も取りにくい。
障害者年金がもらえなければ働かないと生きてゆけない。病状を押して無理して働けば難病認定を切られる。それでも発作を我慢しながら命を削って働いている。働き口があるだけマシ。病名を言っただけで面接すら受けさせてもらえない。家族にお世話になるか、生活保護を利用するしかない状況にある。もうこれ以上(社会保障費を)削らないで頂きたい」。
この他にもシングルマザーや高齢者などが窮状を訴えた。
東京新聞が国会議員全員に「社会保障費を毎年2200億円削減することの是非」についてアンケート調査したところ回答者の87%が反対と答えた(ただし回答者は157人。無回答者は565人)。
「反貧困ネットワーク」が街頭で行った同様のアンケートでも同じような結果が出ている。
「弱者と地方の切捨て」と轟々の非難を浴び、昨夏の参院選で与党は惨敗した。4月の衆院山口2区補選では後期高齢者医療制度の導入が猛反発を受けた。
にもかかわらず福田内閣は社会保障費に大ナタを振るおうとしている。「道路財源を一般化して社会保障費などに回す」と言っていたのは福田首相ではなかったか。
アンケート調査の結果を発表する「反貧困ネットワーク」の湯浅事務局長