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NIKKEI NET

社説1 最低賃金引き上げに必要な労使の努力(6/22)

 「高卒初任給」を目標に最低賃金を引き上げることで政労使が合意した。20日に開かれた政府の「成長力底上げ戦略推進円卓会議」で決着したもので、賃金の底上げに労使が足並みをそろえた意義は大きい。しかし金額は決められず、両者の意見の開きはなお大きい。具体化に向けて一層の努力が求められる。

 円卓会議での合意は「小規模事業所の高卒初任給の最も低位の水準との均衡を勘案して、当面5年程度で引き上げる」となっている。労働組合側は、従業員10―99人の企業の高卒初任給1時間当たり「755円」を主張した。2007年改定後の全国平均の最低賃金687円を68円上回る。

 中小企業団体の代表は難色を示し、中小企業基本法の「小規模企業者」の定義に合わせて「20人以下」の企業を指標に採用すべきだと主張した。この規模の初任給調査はないため議論は煮詰まらず、「目指すべき水準について考え方を示した」(大田弘子経済財政担当相)結果で双方が折れ合った。

 含みを残した合意だが、労使代表が政府、有識者を交えて、取りあえず「高卒初任給」を目標に据えたことは、最低賃金のあり方を変えるきっかけになりそうだ。

 06年まで長い間、最低賃金の引き上げは全国平均で年に数円にとどまっていた。基本的に30人未満の事業所の賃金改定状況を参考に、前年比でいくら上げるという形になっていたためである。低成長が影響したとはいえ、先進諸国と比べて低水準となり、賃金を下支えする最低賃金の役割に疑問符がつき始めた。

 これを打開するため、07年に最低賃金法が改正され、7月から施行される。労働者が健康で文化的な生活を営めるよう、生活保護費を下回らないようにすることなどをうたっている。こうした流れを受けて、07年の最低賃金の改定では全国平均で14円上がった。

 今回の合意によって、賃金水準を底上げするために最低賃金を引き上げていく方向が固まった。原材料価格の上昇や景気の陰りなどで、企業にとって賃金コストの上昇は重い負担である。しかし中長期的に内需を拡大して成長を持続するためには、賃金の底上げは欠かせない。

 これから金額を決める中央最低賃金審議会や都道府県の地方最低賃金審議会を構成する、労使代表は円卓合意を踏まえて結論を出してほしい。もちろん数字の書き換えだけで済む話ではない。政策的支援も必要だが、労使の努力が重要である。

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