日本国内で昨年一年間に自殺した人は、前年比2・9%増の三万三千九十三人だったことが警察庁のまとめで分かった。二〇〇三年に次いで過去二番目に多かった。自殺者が三万人を超えたのは十年連続となり、やり切れない思いに駆られる。
三万人といえば、昨年の交通事故死者数の五倍以上である。一日平均で約八十二人、一時間に三人余りが自ら命を絶ったことになる。こんな状態が十年も続くのは異常事態としか言いようがない。
警察庁の統計によると、年間の自殺者数が初めて三万人を超えた一九九八年は、前年から一気に約八千人も増えた。バブル崩壊の後遺症により企業の破たんが続発した時期で、急増の背景にはリストラや貸し渋りなどがあったとされる。
その後、経済は安定化したものの、毎年三万人を超す人が自殺する厳しい現実は一向に変わらない。危機感を抱いた国は昨年六月に自殺総合対策大綱を策定し、対策に本腰を入れ始めたが、抑制にはつながらなかった。町村信孝官房長官は「可能な限りのことはやっていきたい」と大綱の見直しを急ぐ考えを示した。対策強化は待ったなしといえよう。
警察庁は今回の調査から自殺者の実態をきめ細かく分析するため、原因・動機を五十二項目に分類した。最も多かった原因・動機は「うつ病」で、全体の約18%に上った。男女差はほとんどなく、五十歳以上が半数を超えた。十九歳以下の未成年者も目立った。
二番目は「身体の病気」で、健康問題が上位を占めた。次いで「多重債務」「その他の負債」と経済問題が続いた。詳細が初めて示された自殺の原因・動機は、現在の日本社会が抱える諸問題と密接に関連するものばかりだ。
年代別では、六十歳以上が前年比8・9%増の一万二千百七人で最も多かった。五十、四十代がこれに続き、中高年の割合が高かったが、三十代は同6・0%増の四千七百六十七人で過去最悪となった。
自殺は個人の問題とする考え方はまだ根強いが、社会的な問題としてとらえ、職場や地域での相談体制充実などが急務といわれる。同時に生きやすい社会の創出が重要だろう。
今回、自殺の原因・動機が細かく分類されたことで、職業や年代と連動させて自殺者の実態を詳細に把握することが可能になった。データをきっちり分析し、一人でも多くの人に自殺を思いとどまらせる対策を社会全体で強めたい。
日本を訪れる外国人旅行者が増えている。政府が発表した今年の観光白書によると、二〇〇七年の訪日外国人観光客は前年比13・8%増の八百三十五万人と、四年連続で過去最高を更新した。
国・地域別では、韓国からの二百六十万人を最高に、台湾百三十九万人、中国九十四万人と続き、アジアからの旅行者が七割以上を占めた。訪日ブームの背景には経済成長の追い風があるのだろう。しっかり定着させれば、一〇年に訪日外国人一千万人を目指す政府の「ビジット・ジャパン・キャンペーン」にも弾みがつきそうだ。
一方、国民一人当たりの国内宿泊観光は一・五四回、宿泊数も二・四七泊と振るわず、国内の旅行需要は漸減傾向だ。白書はその背景として、有給休暇の取得日数の減少や、余暇を手軽な外食などで過ごすといったライフスタイルの変化を挙げた。
白書によると、〇六年度に国内で飲食や宿泊などに充てられた旅行消費額は二三・五兆円で前年度比1・4%減った。ただ、訪日外国人の消費額は一・四兆円で二割も増えた。地域経済の活性化も見込める観光産業の振興を図るには、外国人旅行者の一層の誘客が欠かせまい。
自然や歴史、文化の特色を生かしたり、環境保全の取り組みを強化して、国際競争力の高い魅力ある観光地にする必要がある、と白書は提言する。地域の観光資源に磨きをかけるとともに、滞在型観光を促進するには、自治体などの垣根を越えた広域連携の戦略も必要となろう。魅力アップには観光振興を担う人材育成も不可欠だ。
政府は「観光立国」実現に向け、十月に観光庁を発足させる。官民一体の取り組みを強化し、日本観光の奥深い魅力を発信していくことが求められる。
(2008年6月21日掲載)