「学校裏サイト」問題が昨年ごろからクローズアップされている。「いじめの温床」とも報じられ、6月11日に成立したいわゆる「青少年ネット規制法」の議論の発端になった。学校裏サイトとはどんなサイトで、誰が管理しているのだろうか――
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「裏サイト」はネガティブなイメージで語られるが、実態は、同じ学校の仲間たちが集まる掲示板に過ぎない。学生・生徒が一般の掲示板サービスを使い、自分の学校の専用掲示板を作成。学校でのおしゃべりと同様、宿題や授業、部活などについて話し合ったり、時に悪口をささやいたりする。
学校の公式サイトではないという意味で「裏」サイトと呼ばれ始め、マスコミを通じてその呼び名が広がったが、「公式ではない学校掲示板」と呼ぶ方が正確かもしれない。
そういったサイトの多くは、無料掲示板サービスを使って作られている。携帯電話専用掲示板が利用されるケースが多いようだが、PC・携帯電話兼用サービスが利用されることもある。
報道などで“裏サイト”としてよく紹介されているのは、掲示板ホスティングサービス「2ちゃんねる2」(2ch2)上に作られた掲示板「裏2ちゃんねる」や、学生交流掲示板「ミルクカフェ」だ。
裏サイトは一般的に、管理が行き届いておらず、削除依頼を受け付けていないと言われるが、この2サイトは責任者を明確に示し、誹謗中傷を規約で禁止。削除依頼にも迅速に対応している。ただ、PCからすぐに検索できる有名サイトで、マスコミなど“大人たち”が見つけやすいことから、批判の矢面に立たされることも多いようだ。
「2ch2」を運営しているのは、ネットベンチャー・ロケットスタートに所属する開発者の矢野さとるさん(26)。掲示板運営で培った違法・有害情報対応のノウハウを活用してこのほど、犯罪予告を収集し、防犯に役立てるための「予告.in」を2時間で構築して話題になった。
「ミルクカフェ」を運営者するのは、ロケットスタート社長の古川健介さん(27)。矢野さんとは予備校生時代に掲示板を通じて出会って以来、親しく付き合ってきた。
2人に、それぞれのサイトの性質や管理の実態、裏サイトで起きる問題への対策などを聞いた。
●“学校裏サイト”は生徒が作っている
――「裏2ちゃんねる」はどんな掲示板ですか
矢野:僕が運営しているレンタル掲示板サービス「2ちゃんねる2」(2ch2)上に、ユーザーが作った掲示板です。ドメインに利用している「bbs.2ch2.net」は、2001年に起きた2ch閉鎖騒動に便乗して取ったドメインだったのですが、放置しておくのももったいないと思い、レンタル掲示板サービスを始めました。メールアドレスを登録してIDを取れば、誰でも2ちゃんねる風の掲示板を無料で作ることができます。
それを使ってどこかのユーザーが「裏2ちゃんねる」(裏2ch)という掲示板を作りました。「2ちゃんねるで名前欄に『fusianasan』と入力すると、裏2ちゃんねるに飛べる」という釣り(実際には名前欄にリモートホストが表示される)があるんですが、そのfusianasanの実体を作ろうとしたみたいで。「bbs.2ch2.net/fusianasan」というURLになっています。
裏2chの中に、中学生や高校生が、自分の学校について語るスレッドを「学校裏サイト」として立てています。それが徐々に増えていき、今は「学校裏サイト」でPC・ケータイ検索すると裏2chがトップに表示されるようになってしまいました。検索で見つけた人がまた学校裏サイトを作って――というサイクルになっていて、裏サイトが増えているようです。
2ch2は掲示板ホスティングサービスですから、管理は本来、掲示板を設置したユーザーが行います。ですが、裏2chは管理人が不在で荒れ放題になっており、削除依頼などの対応をしてもらえない状態。だから、2ch2全体の管理人である僕が代行して対応しています。
2ch2には、学校裏サイトだけでなく、「自殺掲示板」など社会問題系のほとんどの掲示板があります。それは僕が意図してやったわけではなく、自然とそういう掲示板が増えました。ルールがないわけではなく、一般的なルールはあるし、規約もあります。
自殺掲示板って、自殺者を募集しているように書かれているかと思われがちですが、自殺したい人の気持ちに立って、アドバイスし合って癒していく、という仕組みになっていて。2ch2の自殺掲示板は管理人がしっかりしていて、個人情報を書くのも禁止していて、書かれたらすぐに削除しています。
――2ch2には比較的“アングラ”な掲示板が集まっているようですね。なぜなんでしょうか。
矢野:企業ではなくて、僕が個人で運営しているからかもしれません。
古川:いわゆる公序良俗に反する掲示板を作れる場所は、ほかにあまりないんですよ。見た目も2chに近いから「ここに掲示板を立てれば、放置してくれる」と思われているみたい。そういったサイト自体が少ないから検索エンジンにもひっかかりやすく、そこからユーザーが増えていくみたいです。
矢野:放置はまったくしていないんだけどね。掲示板の分かりやすいところに電話番号もメールアドレスもさらして、学校や親御さんからの削除依頼や相談を24時間体制で受け付けているし、警察やインターネット・ホットラインセンター(ネット上の違法・有害情報の通報窓口)とも連携しています。
●「ミルクカフェを裏サイトと呼ぶのはひどい」
矢野:でも、けんすう(古川さん)のミルクカフェを、学校裏サイト呼ばわりするのはひどいよね。僕とけんすうが出会ったのは、ミルクカフェがきっかけでした。予備校時代、僕が通っていた予備校の掲示板をミルクカフェに作ってもらって、掲示板運営についていろいろ相談に乗ってもらったりして(「ネットは遊び場」――「字幕.in」を1人で作る25歳・無職)。
――「ミルクカフェ」はどんなサイトですか
古川:ミルクカフェは僕が受験生だったころ(2000年)、ネット上に受験情報があまりなかったので、情報を出し合える場が欲しいと思って作りました。「どの先生がいい」「どの参考書がいい」という情報を欲しくて。
最初は予備校生用の掲示板だけでしたが、高校生が増えたので、1年後ぐらいに高校生用の掲示板を作り、今は中学生向け掲示板もあります。
生徒個人に関する情報の書き込みは最初から禁止していて、それは今も変わっていません。「何組のなんとかさんがどうなんだよ」という情報は価値がないから。
――個人名が書けないなら、どんな話題で盛りあがるのでしょうか
矢野:学校で話すような一般的な話題だよね。
古川:「この高校に行きたいんだけど、偏差値どれぐらいですか? ギャルとか多いのですか?」とか。荒れることもありますが、ボランティアが対応できるレベルで、問題のある書き込みはすぐに削除されます。それなのに、何でそんなに「学校裏サイト」と書かれてしまうでしょうか……。
●学校に潜在的にあった問題が、ネットに露出し始めた
――学校裏サイトはいじめの温床とも言われます
矢野:確かに、誹謗中傷と思われる書き込みはあります。でも2ch2では削除依頼があればすぐに削除します。
いじめなどの問題は、学校に潜在的にあったんだと思います。学校は閉鎖された空間だったから、これまで表に出づらかったものが、ネットでみんなが見ることができるようになり、露出し始めたのでは。掲示板がそれを加速させてる部分も、あるとは思いますが。
古川:掲示板は確かに、いじめのツールにも見えますね。学校単位の掲示板だとどうしても個人攻撃になりがちで、恐いです。「A組のあいつってむかつくよな」って言われると傷つきますし。
●大人もネット掲示板で中傷する
矢野:そういえば僕たちは、ネットが浸透している時代に学校に行ったことがないよね。
古川:うん、僕らが学生時代には浸透していませんでした。学校裏サイトで中傷されるっていうのは、社会人の立場で言えば、会社ごとの裏サイトがあるようなもの。例えば自分の会社の掲示板があって、そこで自分の名前を挙げて「キモイよね」って書かれてるようなもんだよね。
矢野:確かに、裏サイト以外にも、裏会社サイトとか、今後できたりすると恐いですよね。イニシャルトークでも誰に対する話か特定しやすいし。
古川:それが一番盛りあがるんですよね。僕、そういうサイトを2001年ごろ立ち上げたことあるけど、中傷やうわさ話がひどかったので閉じました。年齢はあまり関係ないのかもしれません。
文字コミュニケーションは過激になりやすいようで、例えばお母さん同士のメールでの中傷が、学校裏サイトと同じぐらい問題になっていると聞きます。
(→「学校裏サイト」管理人に聞く(中)に続く)
【元の記事】
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