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いのちの現場から:/2 リスク恐れ避けられる救急医療 /千葉

 ◇まず患者受け入れを

 時間だけが過ぎ、焦りが募る。救急患者の受け入れ先が決まらないまま、暗い空が白み始める。今年1月。意識障害を起こした市原市の70代の男性宅前で、救急車は足止めを強いられた。男性は糖尿病の持病があり、意識障害を起こしている。「脳障害はうちでは診られない」「ベッドが満床」。救急隊員が持つ携帯電話から、無情の声が漏れる。到着から1時間40分が経過した午前5時52分。14件目の電話で約20キロ離れた千葉市内の病院に、搬送先が決まった。

  ◇    ◇

 「専門外の救急患者を受け入れて死亡することがあれば、訴訟に発展する可能性がある」。ある医師は受け入れ拒否が多発する理由を、こう説明する。訴訟のリスクが高まる救急医療を避け、病院の収益に直結する一般外来を重視するのは、自然な流れなのかもしれない。

 119番に対応し、救急隊に出動を指示する市原市消防局の司令室には、市内と近隣市の主要病院の空きベッド数がモニター表示されている。本来なら、このモニターを基に搬送病院が決められる。

 しかし、空きベッド数は、すべての病院で「ゼロ」。病院側からの自主申告を反映しているため、救急医療に対する消極姿勢が、そのまま表れる。現場の救急隊員は、苦しむ患者を目の前にして、受け入れ病院を探し、電話をかけ続けるしかない。

  ◇    ◇

 「救急の初期治療は、すべての病院で行うべきだ」との姿勢を打ち出す病院もある。

 柏市の名土ケ谷病院。6月18日午後6時26分、初老の男性が担ぎ込まれた。自宅で突然吐血。胃カメラが準備され、男性は処置室に運ばれる。

 待っていたのは3年目の男性外科医。医師をサポートし、もう1人の医師、2人の看護師が器具や点滴薬を素早く用意する。胃カメラを挿入すると、内部にたまった鮮血がモニターに映し出される。血で黒く染まった患部が見つかる。出血が続く。胃カメラを通して止血薬が塗られる。午後6時57分。応急処置は終了した。

 名土ケ谷病院には、柏市の救急患者の約3割が運び込まれる。掛かり付け医に断られた患者、埼玉県から搬送された患者もいる。

 2人の医師で当直をこなす。専門は外科、内科、整形外科などさまざまだが、救急処置ができる技術を要求している。救急部門責任者の高橋一昭副院長は「救急患者は一刻の猶予も許さない場合が多い。命を助けるためにはまず患者を引き取ること」と話す。

  ◇    ◇ 

 受け入れ拒否根絶を目指す動きもある。「岐阜救急災害医療研究開発機構」では、岐阜大学医学部大学院の小倉真治教授らが中心となり、リアルタイムで「どの病院でどの治療が受けられるか」が分かるシステムを研究している。県内病院の当直医の勤務状況を機構が把握し、救急要請が入ると、機構側が搬送病院を指示する。

 理想の救急医療と言われるが、国や県から予算は付かず、運用化には至っていない。

  ◇    ◇ 

 07年に千葉市消防局から出動した救急隊員が、現場で受け入れ病院を探すためにかけた電話の回数は平均1・84回。約6400人が6回以上の交渉を要し、20回目の交渉で病院が決まったケースもあった。【神足俊輔】

毎日新聞 2008年6月21日 地方版

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