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社説2 分権改革の後退は許されない(6/21)

 政府は20日、地方分権に関する要綱を決定した。地方分権改革推進委員会がまとめた第1次勧告よりも後退した内容だ。これでは福田康夫首相の意欲を疑わざるを得ない。

 分権委は5月末に、国道や一級河川の管理、農地を他に転用する権限などを国から都道府県に移譲し、宅地開発など幅広い事務を市町村に移すように勧告した。我々は政府が勧告を全面的に実施するように求めてきたが、残念な結果である。

 例えば、農地転用をみると勧告に明記された「都道府県への移譲」という言葉が政府案では消えた。福祉施設の基準や国道の管理などでもあいまいな表現や先送りが目立つ。

 世界的に穀物価格が高騰するなかで、日本の食料自給率を高めるためには農地の確保は極めて重要である。しかし、国が権限を握る今でも転用は進み、耕作放棄地は滋賀県の面積に匹敵する規模だ。自給率の向上に自治体も責任を負い、住民も巻き込んで農地保全へカジを切らなければ問題は解決しないだろう。

 福祉施設の廊下の幅まで国が一律で最低基準を決めている点も明らかにおかしい。地域の創意工夫を引き出すためには国が示すのは標準的な水準にとどめ、具体案は自治体の条例に委ねるのが筋である。

 地方分権は中央省庁から権限を奪う改革である。役人任せにすれば内容が玉虫色になるのはいわば当然だろう。自民党内でも族議員が改革に反発している。若林正俊農相のように福田内閣の一員にもかかわらず公然と異を唱える閣僚すらいる。

 だからこそ、福田首相の指導力がなければ前に進まない。分権委は年内に国の出先機関の見直しを柱とする第2次勧告を、来春に税財源の移譲に関する第3次勧告をまとめる。地方に権限をしっかりと与えてこそ、職員やお金も移しやすくなる。

 これでは先行きが不安だ。今回先送りしたり、あいまいな表現にとどまった項目については、首相がその実現を改めて指示すべきだろう。

 自民党内では分権の最終目標ともいえる道州制に関する検討が進む。確かに道州制の導入は必要だが、足元の改革を実現してこそ、その先の展望も開ける。これ以上、分権改革を後退させてはならない。

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