やはり先が思いやられる。政府は20日、国から地方への権限移譲の基本方針となる地方分権改革推進要綱を決定した。「地方分権改革推進委員会」が先月まとめた1次勧告を受けたものだが、焦点の農地転用許可に関する表現が後退するなど、完全実施から遠い内容となった。
今後、分権委は国の出先機関の地方への移譲や統廃合という「本丸」の議論を本格化する。組織そのものの削減だけに中央官庁はさらに露骨に抵抗しよう。官製談合事件の舞台となった北海道開発局の解体的見直しも含め、ひるまず作業を進めねばならない。
各省の抵抗で踏み込み不足の内容だった1次勧告だが、自民党族議員の反発に遭い、要綱はさらにトーンダウンした。勧告で明記していた農地を住宅地などに転用する許可権限の都道府県への移譲は検討課題にとどめられた。1級河川の移管も表現はあいまいになり、保安林に関する権限については大きく後退した。政府は年内に具体案を詰めるが「勧告を最大限に尊重」の文言通りとは言い難い。福田康夫首相の熱意が疑われる推移だ。
分権委が11月に行う2次勧告では、国の出先機関の見直しが俎上(そじょう)に載る。地方整備局(国土交通省)、地方農政局(農水省)など、中央官庁の地方出先機関は、都道府県との二重行政の非効率性や地方支配の弊害が指摘されてきた。
国家公務員約32万人のうち、出先機関の職員は21万人と6割以上を占める。全国知事会は地方に業務を移せば最大約7・5万人の地方移管が可能と提言した。国と地方の役割を見直せば出先の改編は当然だ。同委が8月に行う中間報告でできるだけ具体的な勧告のイメージを示してほしい。
その際、特に留意すべきは、北海道開発局の扱いだ。同局は旧北海道開発庁の下にあったが、01年に省庁再編で国土交通省の出先となった。国道、河川など国の公共事業を幅広く取り仕切り、公共事業に依存しがちな北海道における権限の集中度は高い。
しかし、かねて「道庁の屋上に屋を架す組織ではないか」との指摘があり、相次ぐ官製談合事件はチェック機能不在の体質も露呈した。小出しの分権では事態の改善は難しい。将来の道州制導入も見据え、道庁との統合も含めた抜本改編を検討すべき時ではないか。
出先機関見直しをめぐる分権委のヒアリングに出席した官僚は国による公園管理の必要性を主張した際、「国と県の管理では木の育ち方が全然違います」と真顔で語ったという。1次勧告実現すらおぼつかなくては、「官」の壁は到底打ち破れまい。首相が仮に消費税増税を探るのであれば、政府自ら身を削る姿勢を示すことは当然の前提だ。国の出先にメスを入れることは、避けて通れぬ関門である。
毎日新聞 2008年6月21日 東京朝刊