北朝鮮に対する「テロ支援国家」指定の解除は、秒読み段階に入ったのだろうか。近く北朝鮮が核計画の申告書を6カ国協議議長国の中国に提出し、これを受けてブッシュ米大統領が指定解除を米議会に通告する--これが、18日の講演でライス国務長官が明らかにしたシナリオである。
実際に指定解除に踏み切るなら、大きな決断である。ブッシュ政権の任期は残り7カ月。クリントン前政権が、任期切れ3カ月前に国務長官を訪朝させたことを思い出させる展開だ。米国の2代の政権が、土壇場で「かけ」ともいえる重大な決断を迫られた点に、北朝鮮問題の難しさと危うさがうかがえる。
建前を言えば、テロ支援国家の指定は米国の国内法や規定に基づくもので、北朝鮮に対する指定解除も基本的には米国の国内問題である。だが、北朝鮮の核放棄に向けて6カ国協議が続いてきたことを思えば、米国が日本など関係国の意向を尊重するのはむしろ当然ともいえよう。
この問題について町村信孝官房長官は、拉致問題の進展を目指す日本の立場を考慮するよう米政府に引き続き働きかける考えを示した。拉致だけではない。北朝鮮の核・ミサイル問題でも、日本は最も直接的な脅威にさらされている。北朝鮮が核・ミサイル開発を続け、仮に核弾頭搭載ミサイルを配備して日本などを射程に収めるなら、日本のみならず北東アジアの安全保障は一変するだろう。
そんな事態にならぬよう北朝鮮の核放棄は厳密に行わなければならない。その意味で問題なのは、北朝鮮の核計画申告の中に核兵器に関する情報が含まれない可能性が強まっていることだ。日米韓の3国はそれでも当面は容認する構えだが、ウラン型核開発をめぐる情報も含まれないなら、北朝鮮の申告の意味は著しく薄れてしまう。
そもそも北朝鮮による核施設無能力化と核計画申告は、半年近くずれ込んでいる。シリアへの核技術移転疑惑も十分説明されていない。それなのに、なぜ米国は「アメ」を与えようとするのか。申告内容を吟味した解除ならともかく、申告とともに解除の手続きが始まるというライス氏の見解には首をかしげざるを得ない。明らかに説明不足だ。
先の日朝実務者協議で、北朝鮮は拉致問題解決への再調査を行い、日航機「よど号」乗っ取り事件の実行犯らの日本引き渡しに協力することに合意した。日本政府は独自の対北朝鮮制裁を一部解除する方針を示した。
ライス氏の発言はこうした動きの延長線上にあるのだろう。だが、指定解除によって核放棄へ重要な進展が図れるならともかく、「まず解除ありき」では禍根を残す。日米とも北朝鮮の行動を見据えて慎重に対応するのが当然である。
毎日新聞 2008年6月21日 東京朝刊