日中両国の最大の懸案だった東シナ海の天然ガス田問題について、日本政府は中国と共同開発することなどで合意したと発表した。二〇〇四年六月に中国によるガス田「白樺」(中国名・春暁)の単独開発着手が発覚して以来、両国の「のどに刺さったとげ」は一応、取り除かれたといえよう。
合意内容は、日本が境界線として主張する排他的経済水域(EEZ)の「日中中間線」をまたぐ形で、北部のガス田「翌檜(あすなろ)」(同・龍井)の周辺海域を共同開発することと、「白樺」に日本企業が出資することが柱になっている。しかし、両国で意見が対立している境界線問題は棚上げされており、今後に火種を残した格好だ。
中国側は、日中中間線よりはるかに日本側に近い尖閣諸島を含む「沖縄トラフ」までの大陸棚を境界線と主張し、日中中間線の存在自体も認めていなかった。福田政権発足後、姿勢を軟化させ、今年五月の東京での首脳会談で、双方が実質合意にこぎ着けた。ただ、中国国内の反日感情を考慮して、公表が控えられていた。
今回の合意発表は、胡錦濤国家主席が再来日する七月上旬の主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)などのタイミングもみて決まったようだ。それでも、中国国内ではインターネット上で、共同開発に反発する書き込みが殺到しているという。中国外務省の姜瑜副報道局長は会見で「春暁ガス田は中国の主権の範囲内」と述べ、中国側が譲歩したと受け取られないよう原則論を強調した。中国の難しい国内事情が浮き彫りになった。
合意の背景には、八月の北京五輪を控え外交トラブルの芽を摘んでおきたい胡主席と、内閣支持率の低迷が続きアジア外交で得点を挙げたい福田康夫首相のそれぞれの思惑があったことは見逃せないが、両首脳が合意した「戦略的互恵関係の包括的推進」の第一歩には違いない。何より対話による歩み寄りは歓迎すべきことだろう。
今後は中国側との出資比率などを具体化する交渉に入る。ただ、ガス田の実態は不透明な部分が多い。甘利明経済産業相は「埋蔵量に過度な期待はしていない」とし、国内の石油開発会社なども慎重姿勢という。
ひとまず決着したとはいえ、資源という実利だけにとどまらないのがガス田問題だ。棚上げされた境界線の問題を抜きには考えられない。国の主権にかかわるだけに容易に結論は出まいが、日本としての原則を主張していくことが必要だ。
日本からブラジルへ初めて移民船が渡って今年で百周年を迎えた。「日本ブラジル交流年」行事として、現地ではルラ大統領主催の記念式典が皇太子さまも出席して開かれるなど祝祭ムードが盛り上がっている。
日本人七百八十一人を乗せた移民船「笠戸丸」が、神戸港を出港しサントス港へ着いたのは一九〇八年六月十八日だった。戦前戦後を通じて二十数万人の日本人が移住し、その子孫は百五十万人に膨らんでいる。
ブラジル経済は九〇年代半ばから、豊富な鉱物資源や農業生産を背景に高い経済成長を続けている。民主主義が定着し、ロシアやインド、中国と「BRICs」の一角を占める。
日系人が政治や経済など多方面で活躍しているのは、勤勉で信頼できると高い評価を得てきたことに加え、ブラジルが世界から多くの移民を受け入れてきた事実も見逃せないだろう。
しかし、日本は外国人の受け入れでブラジルとは対照的だ。一九九〇年の改正入管難民法で、「デカセギ」のための日系ブラジル人らの定住が認められた。現在、日本には三十数万人が暮らすが、実態は製造業での労働力としてで、景気が落ち込めば真っ先に整理される不安定な派遣社員も多いという。
日系人の子どもたちへの教育も課題だ。ポルトガル語や日本語を学べる学校が少ないため、不就学や不登校になるケースがある。公的な支援は不十分だ。岡山県内では総社市でNPO法人が運営するブラジル人学校が今年やっと誕生した。日系人父母らの期待を集めている。
日本は外国人も分け隔てなく暮らせる多文化共生社会を目指している。日系人の歴史から学ぶべきことは多い。百周年を共生の在り方を考える契機としなければならない。
(2008年6月20日掲載)