一昨日、僕の部屋に、新しい椅子が届きました。音楽やデザインの作業をするときに座るための椅子です。
従来使ってきた椅子は、大学生のとき、新譜のレコードを2、3枚ほど我慢して購入したもの。布張りで色はグレイ、足にはタイヤが付いていて。つまり、どこのオフィスでも見掛けるような、至極オーソドクスなヤツです。

水戸市の学生街。同じ茨城の、人里離れた山村。そして現在居を構える東京郊外の住宅地。3つの場所を移りながら、その椅子に腰掛けて僕はレコードを磨き、ギターや鍵盤を弾き作曲し、デザインの仕事をやってきましたが、8年も座ると、座面のクッションは完全にひしゃげてお尻が痛いわ、後方へ凭れかかると、座面裏側からL字型に伸びて背凭れ部分を支えている支柱が、悲鳴にも似た音を立てて軋むわ…。
そんな、8年選手からの訴えもおもんぱかり、お前さん、ご苦労だったな、と一大決心。
今は、新譜のレコード5、6枚くらいのお金を払って購入した、新しい相棒と共に、この原稿を書いているのであります。

とくだんの個性も伺えぬ、まして、高名なるデザイナーの設計したような「みんなの名作」ではありませんが、耐久性を考えて黒の革張り仕様、そして、最近、ギターを用いての作曲がめっきり減ったということで解禁、とした、「肘掛け」つき(ギターを弾かれる方はお分かりか、と思いますが、座ってギターを構えるとき、肘掛けは非常に邪魔になるのです!)。いまの僕には充分すぎるほどに、贅沢です。
さあ、この、未だ弾力に満ち満ちたクッションに腰を据え、これから、どんな新しいアイディアが生まれてくるだろう…。もちろん、生活も、もの作りも、全てこの椅子の上だけで行うわけではないのだけれど、とにかく、久々の「買物」で、ちょっとだけ、ワクワクしている、最近の僕です。

ワクワクしている、といえば、皆さんより少しだけお先に、bice(ビーチェ)さんの新アルバム『かなえられない恋のために』、聴かせていただきました。発売前のいま、ここで感想を書くのは止しますが、すぐに魅了された僕、気付いたら、感動した気持ちを綴り、biceさん宛てにメール送信していました。これ、ホントの話です。そうしたら翌日、ご本人からちょっと嬉しいご返信をいただいたのですが、それはまだ、ナイショの話、ということにしておきましょう。
発売は7月23日。もうすぐ、ですよ。それに先駆け、このサイトでスタートする特集ページも、どうぞ、お楽しみに。

さて。今日の「レコード手帖。」は、(旧)日本コロムビアにてディレクターを務められていたお方で、現在はエッセイストとしてご活躍中の、飯塚恆雄さん。
4月初旬に掲載させていただいた「ペリー艦隊のチラシ〈ミンストレル・ショー〉を追って」と同様、今回も、飯塚さんが「音楽」について思索を巡らす道程――その視線の動き、意識の高まりがそのまま文字となって活動しているかのような筆致。
僕は、飯塚さんのコラムを目前にして、これから椅子の上で姿勢を正します。

今日もご覧下さり、ありがとうございます。

(前園直樹)