映画「靖国」は、国内外で論争の的になっている靖国神社を、日本在住の中国人、李纓(り・いん)監督(45)の目を通して見つめたドキュメンタリー。
8月15日になると、靖国神社の境内には、さまざまな人が集まってくる。進軍ラッパをならし、兵隊のかっこうをして行進し、本殿の前では模造銃をささげて敬礼。そして日の丸を振り回し「天皇陛下、万歳」と叫ぶ-。やっている人はみな真剣なのだろうが、どう考えても時代錯誤だし、自己陶酔の世界に入っているだけとしか思えない。戦争反対どころか、戦争賛美。映画は、そんな興奮状態に陥っている群衆を冷静にみつめ、見る者に靖国の意味を問いかける。
靖国神社には米国人もいた。「靖国問題について米国が黙っているのはおかしいデス。日本と米国は共通点が多い。どちらも野球が好きだし。イチロー(マリナーズ、34歳)もいるでしょ」と、星条旗を持ちながら、そんなとんちんかんなことを言うからトラブルになり、境内から追い出されてしまう。
映画はそんな靖国神社の「動」の部分と対比して、同じ神社の中で人目につかず「靖国刀」と呼ばれる軍刀を今も作りつづける現役の刀匠、刈谷直治さん(90)への「静」のインタビューを加えながら進んでいく。自分の作った刀が、戦争中は捕虜の首を斬るのに使われていた、という事実は刈谷さんにとってあまりにも重い。刀の役割に関する質問に対する刈谷さんの長い沈黙に、戦後60年以上たった今も続く心の苦しみがにじむ。日本人の監督では、ここまで踏み込んだインタビューはできなかっただろう。
野球をテーマに、外国人から見た「日本」の違った一面が描かれたドキュメンタリー映画の秀作に「高校野球 HIGH SCHOOL BASEBALL」があった。2006年の米国映画。ケネス・エング監督(32)は、イチローなど日本人大リーガーの活躍が相次いでいることから、日本の野球の原点ともいえる高校野球に興味を持ち、ドキュメンタリーの製作を始めたという。日本では劇場未公開だが、2007年には衛星波で放送された。
地方大会で負けた高校の女子マネジャーは「自分たちの分もがんばって」という思いを託して勝った高校の女子マネジャーに自分たちの千羽鶴を手渡す。
試合前日、控え選手の最後に選ばれて18番の背番号をもらった選手は「18番には、選ばれなかった残りの部員全員の思いが込められているんだぞ」と監督から声をかけられ感極まって涙を流してしまう。
どちらも日本人には見慣れた光景だが、外国人には日本人の心情を象徴する印象的な場面だ。
大阪の公立進学校、天王寺と甲子園常連の強豪私学、智弁和歌山という対照的な2つの高校に密着し、甲子園を目指す地方大会での戦いぶりや、生徒、父母の応援風景を克明に記録していた。単なる興味本位ではない温かみのある視点に好感が持てた。
「靖国」や「高校野球 HIGH SCHOOL BASEBALL」など、良質のドキュメンタリーは、外国人の日本観をわかりやすいかたちで伝えてくれる。
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