東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

自殺3万人超 生きる道に戻したい

2008年6月20日

 年間の自殺者が十年連続で三万人を超えたのは、異常な事態だ。最近は硫化水素による自殺が急増している。自殺を社会の深刻な問題としてとらえ、死のふちにいる人を生きる道に連れ戻したい。

 警察庁のまとめでは、昨年一年間の自殺者は三万三千九十三人にのぼった。一九九八年以来、三万人を超えている。自殺率でみると、主要国ではロシアに次ぐ高い割合で、アメリカの二倍、イギリスの三倍だ。「自殺大国」と言われても仕方ない。

 自殺の原因・動機を特定できたのは七割にとどまり、このうち「健康問題」が過半数を占めた。

 健康問題をもう一段階分類すると「うつ病」が六千六十人と最も多かった。

 有効な自殺防止策を講じるためにも原因や動機を解明する必要がある。うつ病とひとくくりにしていいか。うつ病になった原因まで究明しなければ、自殺の本当の動機を特定できたとは言えまい。

 自殺した人のプライバシーや遺族の心情を配慮しながらも、もっと詳細な調査と分析がほしい。

 健康問題の次には「経済・生活問題」が七千三百十八人と多かった。全体では「多重債務」や「生活苦」が多いが、二十代では「就職失敗」や「失業」という動機も目立つ。

 一方、自殺率でみると、五十歳以上の中高年が高く、「介護・看病疲れ」は二百二十四人いた。

 若者のワーキングプアや高齢者の老老介護など社会弱者の問題と自殺者数の高止まりを切り離して考えることはできなくなった。

 カウンセリングの充実はもちろんだが、職場や学校、地域ぐるみで目配りしていく必要がある。

 最近は硫化水素による自殺が急増している。今年は五月末までに五百十七人と、昨年一年間の十八倍だ。二十代が45%を占める。

 製造方法がインターネットに流れたことが急増の要因とされ、有害情報として排除する対策がとられつつあるが、根本解決にはならない。硫化水素や練炭での自殺で方法や場所をネットに求めているのは、周囲に話し相手がいないとみるべきではないか。

 高齢者についても「社会への信頼を失い、孤独感を深めているから」と指摘する識者もいる。

 日本の自殺は「本当は生きたいが、生きる道を閉ざされての死」とも言われる。孤立を深め、死まで考えている人に周囲が気づいて声をかけることが、生きやすい社会への第一歩になっていく。

 

この記事を印刷する