東京都杉並区の区立小学校で校舎屋上の採光用天窓から6年生の男児が転落死した事故は、最も安全なはずの学校施設に重大な危険が潜んでいることを私たちに思い知らせた。
事故は3階建て校舎の屋上で歩幅と距離をテーマに算数の体験学習を終え、教室に戻ろうとした際に起きた。教師が別の子を注意しているうち「ガチャン」と音がし、男児が吹き抜けホールの1階に転落したという。天窓は直径約130センチ、厚さ7ミリの網入りガラスがはめ込まれ、その上にドーム状に厚さ4・5ミリのアクリル製覆いがしてある。それらが上に乗った男児の体を支えきれずに破損した。
この小学校の校舎は1986年に移転新築された。区の教育委員会などによると、天窓については、普段は屋上が施錠されていて鍵を持つ教師が引率しなければ子供たちは入れないことから特に留意はしていなかった。3年に1度、建築士による校舎の点検の時、目視点検はしており、2年前の検査でも異常はなかった。児童がその上に乗るということ自体、想定も予見もしていなかったという。
だが、どうだろうか。
屋上は時折使われ、天窓周辺などにも子供たちの行動と危険について十分配慮が必要だったはずだ。現に天窓には以前のものとみられる複数の足跡があった。
なのに、一般によく用いられるさくのような防護設備がなく、子供たちに乗らないようにという注意や指導もしていなかった。また築後20年以上である。劣化の可能性も念頭に強度確認が必要ではなかったか。
さらに、01年に神奈川県で小学6年の女児が転落して大けがをするなど、各地で学校の天窓の事故が散発しているが、文部科学省も実態を掌握しておらず、危険の認識が薄かったことも否めまい。
戦後の学制改革、ベビーブーマー(団塊の世代)の入学などによって学校校舎は急増し、高度経済成長期に鉄筋化も進められた。80年代ごろから建て替えとともに、新しい授業手法や理念を反映した設計も工夫されるようになり、各地に個性的な校舎が登場した。壁や仕切りを少なくしてゆったりしたスペース、ガラスを通した採光などである。
旧文部省は92年、小学校施設整備指針で、子供の多様な行動に応じた安全性の確保を挙げ、ガラスも人体の衝撃で破損しにくくするよう注意している。今回の事故を想定したわけではないが、子供たちの活発な行動を受容してこそ学校施設であり、安全がすべての出発点だろう。
全国で校舎の耐震化工事を急ピッチで進めようという折、今回の痛ましい事故は思わぬ側面から学校の安全について警告を発した。地震対策と同様に、新旧の別なく「まさか」の思いを封じ、施設点検をゼロからやり直そう。
毎日新聞 2008年6月20日 東京朝刊