周辺都市にも恩恵、見えてくる札幌のあるべき姿

市営地下鉄環状線構想を提言する(後編)

太刀川 洋平(2008-06-20 08:30)
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市営地下鉄環状線構想を提言する(前編)」からのつづき

気になる財源の問題

 専門家ではないので参考程度の数字で財源を考えてみる。まず、直近に建設した東豊線の総距離は1万4530キロで、建設費の総額は3303億円である。環状線のプランは比較しやすいように、東豊線とほぼ同距離にしてある。

 単純に考えれば東豊線と同程度の3303億円が環状線の建設費になるわけだが、東豊線はバブル期の建設だった上、価格競争もなかった。今は建設費も当時より低く抑える事が可能である。新幹線ですら、当初計画の6割~7割の建設費で予算を組んでいる。

 今回は東豊線建設費よりも単純に3割程度低い2300億円を環状線の総建設費と考え、完成までは10年間を要する事とする。この2300億円の財源であるが、まずは国土交通省からの補助金である。国土交通省には「地下高速鉄道整備事業費補助」という項目があり、問い合わせたところ、「地元でコンセンサスが得られれば、事業の採算性、効果・影響、実行可能性等を分析した上で判断する」との事であった。

 この補助金は総事業費の4分の1程度の額を補助するものであり、現在も札幌と同じく政令指定都市である名古屋市や仙台市の地下鉄事業に補助金が支出されている。

 環境にもプラスになるという観点から環境省にも問い合わせてみたが、環境省ではマッチする補助金がないようである。道からは当然、ある程度補助金が出ると思われるが、財政困難のせいか、問い合わせに対して回答はない。

 それから、環状線全線開通後数年をめどに、地下鉄全線の営業権をJRに譲渡する事を前提にJRからの資金援助(営業権譲渡費用の前払い等)も想定する。これについてJRは具体的な情報がないと検討ができないとの事だったが、可能性はゼロではなさそうな感じだった。

 ほかに地下鉄目的市債を発行するのも1つの手段である。現在、償却できないで残っている地下鉄関連の市債の発行利率の平均は4.68%(2007年10月時点)である。そして、同じく現時点で発行している市債の利率は、例えば、2007年9月に発行した10年債で表面利率が1.77%である。このとおり、現在、不景気であるがゆえに利率が低いのである。

 さらには地下鉄料金を各10円値上げする方法もある。10円の値上げで単純にどれだけ収益が上がるか(税源を確保できるか)は想像の域を出ないが、値上げして市が無駄遣いするわけではなく、地下鉄建設に充当するのだから地下鉄利用者の理解はある程度得られるのではないか。

 東豊線建設時には、各補助金の総額が約192億円で、企業債等で残りの財源を捻出(ねんしゅつ)した事を考えると、大幅に市の負担を減らして建設できる可能性は非常に高い。

財源は何とかなりそうだ!

 例えば、図Bは、この環状線建設の総事業費における財源の内訳を示したものである。建設費2300億円のうち、国土交通省から600億円(総事業費の4分の1程度)、道から約100億円の補助金を引っ張り出せると仮定して、残るは1600億円。それからJRからの資金援助(営業権上と費用の前払い等)で600億円(この額が妥当かどうかはわからない)。残り1000億円。
作成:太刀川洋平

  10円の値上げで100億円(10億×10年で計算)、市債の発行や通常の予算でまかなう部分が900億円程度になる。これが10年計画であるとすれば年間90億円程度の予算付けが必要である。札幌市は2006年度分で道路関係の公共事業費として273億円を1年で支出している。いまだに天下りや無駄遣いが残る市政としては節約の範囲内で財源は十二分に確保できるだろう。

 市は緊縮財政を続けている中において、テロ対策だか何だかわからない「豊平川上流と下流の浄水場をつなぐバイパス水道管の敷設計画」を立てている。総事業費は187億円である。ほかに市民会館の代替施設である新「札幌市民ホール」には年間約20億円以上の賃料(リース方式のため)を最低6年半は払わないとならない。

 このご時勢、費用対効果を熟慮した計画とは思えない。今、市がすべき事は、長く収入増加になる施策をとる事である。地下鉄環状線こそ、将来の大幅な収入増、人口増にもつながるし、10年間の景気浮揚効果も絶大である。

実現後の影響力

 地下鉄環状線構想が実現した後、札幌はどんな都市になっているか?

 利便性が大幅に増し、予想に反して人口は増え、名古屋市を抜く規模の都市になっているかもしれない。都心にはビルは多いが、緑も残り、街中を走る車は半減しているかもしれない。都心回帰ではなく郊外型のタウンがどんどんできて、子供たちも環境の良い中で元気に過ごしているかもしれない。

 地下鉄事業をJRに売却(譲渡)した札幌市は身軽になり、本来の役所の業務に集中する事ができ、子供は当然として、お年寄りや低所得者にも優しい市政が施されているかもしれない。噂(うわさ)を聞きつけて札幌の人口は毎年増え続け、市の収入も上がっているかもしれない。

 石狩市と道の共同事業で、石狩湾新港から地下鉄駅までの区間に人・貨物両方を輸送するモノレールが建設されるかもしれない。道外からの札幌への移住者が増え、札幌は当然、周辺都市にもその恩恵が発生しているかもしれない。

 市民それぞれが、そんな事を想像しながら、地下鉄環状線構想が、これからの札幌のあるべき姿を考える契機になれば有り難い。

(了)


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