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医療クライシス:脱「医療費亡国論」/4 経済波及効果

 ◇公共事業を上回る

 入れ替えたベッドを運ぶ人や、掃除用具を持った人々が忙しそうに行き交う。横浜労災病院(横浜市港北区)の地下は、患者の見えないところで人々が活発に働いている場所だった。

 薬剤部、資材室、中央監視室。同病院の地下には、病院の裏方とも言える機能が集約されている。医療機器を管理する部署では、数人が機器の点検や補修をしている。事務用品や使い捨て医療用具を扱う資材室では、職員が各診療科で必要な備品を仕分けし、院内に配送する作業に追われていた。

 ベッド数650床の同病院では日々、約1000人もの人々が働いている。医師、看護師、薬剤師、放射線技師、事務職員……。清掃や給食調理、警備、医療機器の補修などには、業務委託先から大勢の人が派遣されてきている。下小川豊・事務局長(59)は、理学療法士や栄養士などの職種も挙げ、「病院の中では約30種類の専門職が働いている」と説明する。

 病院は当然ながら、患者に治療を提供する場だ。同病院は地域がん診療連携拠点病院や災害医療拠点病院に指定されるなど、県内の医療の中核を担っている。一方、地域にとっては、雇用を提供し、さまざまな物資も購入する「事業所」という側面も見逃せない。

 07年度、同病院の支出総額は164億8000万円。人件費が61億円で最も多く、薬剤費21億1000万円、カテーテルなどの診療材料費約17億円などが続く。外部の業者への業務委託費も18億2400万円に達する。

 「医療立国論」などの著書がある大村昭人・帝京大医療技術学部教授は「医療機関の存在による経済波及効果は非常に大きい。医療に関連する研究機関や産業が広がり、雇用も生み出す。そもそも、医療機関自体が、治療により労働力を再生産する場所でもある」と話す。

   ■   ■

 医療にはどの程度の経済波及効果があるのか。国の10府省庁は5年ごとに、産業各部門間の経済取引の関係をまとめた「産業連関表」を作成している。宮澤健一・一橋大名誉教授(経済学)らは、00年の産業連関表の基礎データを基に、全産業を医療や介護をはじめ、農林水産業、公共事業、運輸など56分野に再編成した連関表を独自に作成し、ある分野に投入した費用が他分野の生産や雇用にどれだけ波及するのかなどを分析した。

 生産増は所得増を呼び、消費につながって生産を増やすという形で経済波及効果は拡大していく。連鎖的な波及効果まで含めた「生産誘発係数」を求めたところ、医療は約4・3で、公共事業の約4・1を上回った。「4・3」とは医療に1兆円を投入すると、他分野で3・3兆円の生産を誘発することを示す数字だ。

 景気対策としての公共事業に賛成する意見がある一方で、医療費については「社会の重荷」なので少ない方がいいという考え方が一般的だが、宮澤名誉教授は指摘する。

 「医療は財政にマイナスのように言われるが、決してそうではない。公共事業を上回る経済波及効果がある」=つづく

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 ご意見、ご感想をお寄せください。ファクス(03・3212・0635)、Eメール t.shakaibu@mbx.mainichi.co.jp 〒100-8051 毎日新聞社会部「医療クライシス」係。

毎日新聞 2008年6月20日 東京朝刊

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