政府の経済財政諮問会議が、福田政権では初めてとなる重要政策の指針「骨太の方針二〇〇八」の素案をまとめた。
骨太の方針は、政府の経済運営や予算編成の基本方針を示すものだ。与党内から歳出抑制に反発する声が強まる中、素案では「歳出改革の努力を緩めず、最大限の削減を行う」と明記した。「改革後退」の印象を避けるため、歳出削減路線を堅持する姿勢を示したといえよう。政府が月内にも閣議決定する最終案でも歳出抑制を貫くべきだ。
政府は、小泉政権が最後に策定した二〇〇六年の「骨太の方針」で、一一年度までに基礎的財政収支を黒字化することを目標にしている。その実現のため、社会保障費の伸びを五年間で一兆一千億円圧縮、公共投資も毎年1―3%削減する抑制方針を定めてきた。
しかし、与党内では後期高齢者医療制度への批判が高まる中、特に社会保障費については「削減はもう限界」との声が噴出している。さらに〇九年度からの道路特定財源の一般財源化をにらんで、「予算のぶんどり合戦」の様相も呈している。
素案では、道路特定財源の一般財源化について「生活者目線で使い方を見直す」との方針が示された。福田康夫首相は深刻化する医師不足対策や救急医療体制の整備を進めることなどを強調し、財源を道路特定財源の見直しや無駄な支出の排除でひねり出す考えを示した。
税制では「環境税の取り扱いを含め、税制全般を横断的に見直す」として、環境税導入の検討を初めて盛り込んだ。地球温暖化対策として、ガソリンにかかる揮発油税を環境税に衣替えすることを念頭に「福田カラー」を打ち出したといえよう。一方、消費税を含む税体系の抜本的な改革については「早期に実現を図る」としただけで、具体的な記述は見送った。
増大する社会保障費の財源確保として有力視されているのが消費税率の引き上げだ。福田首相は十七日の主要国通信社との会見で「決断しなければならない大事な時期だ」と、早期引き上げは不可避との見解を示した。だが、〇九年度税制改正で引き上げ決定に踏み切るかどうかは不透明だ。
増税に走ったり歳出抑制のタガが緩んだりする懸念が出ているが、その前に見直すべきは無駄な支出の徹底的な洗い出しだろう。政府が財政健全化の路線を維持できるかどうかは、夏の概算要求基準の策定や年末の予算編成作業にかかってこよう。福田首相にとっては踏ん張りどころである。
東京都と埼玉県で起きた幼女連続誘拐殺人事件の宮崎勤死刑囚に刑が執行された。事件発生から約二十年、最後まで心の内は見えず、反省や謝罪の言葉も語られることはなかった。
確定判決によると、宮崎死刑囚は一九八八―八九年にかけて四―七歳の女児四人を連れ去って殺害した。遺体を切断したり、骨を入れたダンボール箱を遺族宅に置いたりする猟奇的な犯行が世の中を震撼(しんかん)させた。
裁判では刑事責任能力の有無が争われた。一審の東京地裁での精神鑑定結果は三通りに分かれたが、裁判官は完全責任能力を認めて死刑判決を下した。被告側は東京高裁、最高裁へ控訴や上告をしたが、ともに退けられ、二〇〇六年二月に死刑が確定していた。
鳩山邦夫法相の下で死刑の執行が相次いでいる。〇七年八月の就任以来十三人に上り、一時中断していた執行が再開された九三年以降で最多となった。宮崎死刑囚の場合、刑確定から執行までの期間は二年四カ月で、平均とされる八年より大幅に短縮された。
こうした状況の中で、来年五月二十一日から裁判員制度がスタートする。国民から選ばれた裁判員が裁判官とともに、殺人や強盗致傷といった重大な刑事裁判の一審の審理に当たるもので、死刑とも向き合わなければならなくなる。
裁判員制度に対する国民の不安感の多くが、素人が他人の運命を決める責任の重さとされる。相次ぐ死刑執行は一層実感させよう。宮崎死刑囚の裁判では精神鑑定の複雑さが浮き彫りにされた。判決を左右するだけに評価の理由を裁判員に分かりやすく伝えることが欠かせない。「国民参加の司法」へ、法曹三者による国民の不安を除く一層の取り組みが必要となろう。
(2008年6月19日掲載)