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2008年6月20日

◎漁船の一斉休漁 省エネ転換へ重点支援を

 イカ釣り漁船に始まった一斉休漁の動きは漁業全体に広がり、七月には全国漁業協同組 合連合会(全漁連)が一斉休漁行動に踏み切ることになった。後継者難や高齢化、魚価低迷に加え、急激な燃料費高騰が漁業経営の悪化に追い打ちをかけ、廃業が相次げば水産業の盛んな石川、富山県への影響はより深刻である。

 漁業団体側は燃料費高騰分の補填(ほてん)や融資条件の緩和などを国に求めており、 一斉休漁は窮状を訴える狙いがある。漁業が生業として成り立たないほど厳しい状況にあるなら直接的な救済策も一つの選択肢だが、漁業経営の足腰を強くするうえで大事なのは高コスト体質からの転換を促す重点的な支援である。

 漁業には他の産業にみられない過度の競争がこれまで指摘されてきた。漁船は他船に負 けまいと全速力で好漁場を目指し、漁場でも魚群を探し求めて必要以上に燃料を費やす。イカ釣り漁でも自分の漁船にイカを集めるため、集魚灯の光を強くする競争も一部でみられた。輪島の刺し網漁で漁業者をグループ化して船を効率的に動かす共同操業が試みられているように、操業の組織化で無駄な競争を見直す余地はあるのではないか。

 全漁連によると、主要燃料であるA重油の平均価格は、二〇〇三年に一キロリットル当 たり三万九千円だったのが今年六月の平均価格は十万四千六百円になるとみられる。経費に占める燃料費の割合も二、三割に達し、これでは操業意欲もそがれるだろう。

 出漁するだけで赤字になるという異常さは燃料費高騰が招いたとはいえ、漁業の経営基 盤の脆弱さもあらためて浮き彫りにした。競りで価格が決まり、他の産業のように高騰分を商品に転嫁しにくいのが漁業である。経営の構造改革を着実に進めない限り、燃料費に振り回される状況はいつまでたっても改善されないだろう。

 国や県は操業の輪番制や共同化などを推進し、イカ釣りの集魚灯についても電力消費量 の少ない発光ダイオード式への転換を促している。漁業者側もできうる限りの努力を重ねる姿勢を示してこそ、支援策への幅広い理解が得られるはずである。

◎ガス田共同開発合意 これからが交渉の本番

 日中両国政府が、東シナ海の天然ガス田の共同開発で正式に合意した。日本側の主張に 中国側が歩み寄って一応の決着をみたことは評価できるが、交渉の本番はむしろこれからであり、日中間の最大の懸案解決と浮かれているわけにはいかない。

 先の日中首脳会談では「戦略的互恵関係」の構築を確認した。東シナ海の日中中間線海 域のガス田共同開発は、その試金石となる。双方がバランスよく利益にあずかる、いわゆる「ウィン・ウィン」の関係になるかどうかはまだ予断を許さず、もう一度、ふんどしを締め直して今後の交渉に臨んでもらいたい。

 合意に至った最大のポイントは、中国側が単独開発を強硬に主張してきたガス田「白樺 」について、日本側の出資を認めたことである。中国側が大きく譲歩したかたちで、日本との対立を回避することが国益にかなうという大局的判断があったとみられる。が、海底のガス田が日本側にも広がっているとすれば、中国側の譲歩は当たり前ともいえる。

 「白樺」の開発事業について中国外務省は「中国の主権の範囲内だ」と説明しており、 今後の出資比率の交渉が簡単に進むとは思われない。共同開発で合意した「翌檜(あすなろ)」周辺の海域を特定する難しい作業もこれからである。気掛りなのは、中国政府が日本との共同開発を認めたことに対して、売国的行為といった批判が中国国内で出ていることだ。こうした反日世論に引きずられることがないよう中国政府に求めておきたい。

 また、「樫」と「楠」の二つのガス田の扱いは未決着であり、排他的経済水域(EEZ )の境界画定という根本問題も残されたままである。中国側は自国EEZについて大陸棚が延びる沖縄近海までと言い張っているが、今回の共同開発合意で中国側の主張を押し返すことができたとみることもできる。しかし、日本が主張する日中中間線を中国側が認めたわけでは無論ない。対中交渉では、尖閣諸島の領有権を含め、主権侵害を許さないという強い姿勢を堅持してもらいたい。


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