医師不足の中、慢性的に不足している「麻酔医」の現状を取材しました。
厚生労働省は18日、医師不足の解消などを柱とする長期ビジョンをまとめましたが、遅きに失したという指摘もあります。
手術に欠かせないのが麻酔医ですが、全国で全身麻酔を実施しているおよそ4,000の医療施設のうち、半数で慢性的に専門医が不足しています。
深刻な状況に直面する国立病院の現状と、地域医療活性化のために立ち上がった医師たちの姿を追いました。
外科医や看護師たちが忙しく動き回る手術室の一番奥で、患者の状態をじっと見守っているのは遠藤正宏医師。
遠藤医師は、東京・中央区の国立がんセンター中央病院の常勤麻酔医。
遠藤医師は「手術終わった患者さんも診なきゃいけなくて、最初はリカバリールームっていうところに僕行きますから」と語った。
午後1時、遠藤医師は朝からオペを始めて、手術室6番と9番でのオペが終了した。
手術室11番、12番でもオペが行われ、この4件のオペは、すべて遠藤医師が麻酔を担当している。
遠藤医師は「お昼が一番忙しいときだね。あとは抜管といって、患者さんを覚ますときに立ち会わないと危ないんですよ、麻酔っていうのはね」と語った。
多くの病院で、麻酔医はこうした激務にさらされているという。
がんセンターでは、2008年3月までに、10人いた常勤麻酔医のうち、5人が別の病院への移籍などを理由に次々と退職した。
麻酔医の不足により、手術件数の維持が困難となり、手術は半分近くに減少した。
先の見えない状況に、がんセンターの土屋了介院長は「今、フリーでやってらっしゃる方は1回いくらということで、わたしどもが伺っているのは、1回1日7万円〜10万円とか、それ以上という話も聞きます。わたしども国立(病院)の場合には、それだけのお金はとても出せない」と本音を漏らした。
特定の病院に属さない「フリー麻酔医」は、過酷な労働環境などを理由に勤務医を辞め、複数の病院で手術ごとに出来高制で手術を請け負う医師。
こうした医師たちの年収は、公立病院の勤務医の年収を大きく上回り、3,000万円を超える人も少なからずいるという。
報酬の高騰化は、自治体の医師不足に拍車をかけるが、この現状をフリー麻酔医の側から変えようという動きも出始めている。
一般の患者が来たことはないという船橋メディカルクリニック。
院長の境田康二医師は「月曜の午後5時半から午後7時半、(週に)2時間しか開けないクリニックということになりますね」と語った。
船橋メディカルクリニックは、元々船橋市立医療センターで麻酔部長だった境田医師が立ち上げた。
一緒に医療センターを辞めた麻酔医を含む7人のフリー麻酔医と契約関係を結び、医師たちはここを拠点にしながら近隣の病院を飛び回っている。
いわば麻酔のプロ集団。
境田医師がフリーの立場を選んだ理由は、公立病院の勤務医は公務員であるため、近隣の病院からの支援要請に応じることができないからだという。
彼らは、特定の病院に縛られず、数多くの患者を担当することで、地域全体の麻酔医不足に対応しようとしている。
境田医師は「麻酔医が足りないから手術ができないじゃなくて、地域全体として全身麻酔をかける患者さんがこのくらいいて、それを少ない麻酔科の医者たちで何とか補い合って」と語った。
手術に不可欠な麻酔医。
麻酔医の増員や勤務医の労働条件の改善など、医療体制の見直しは、待ったなしの状況になっている。
(06/19 12:47)