「明日クルマが動かんだろうが！」その瞬間、鼻血で服が真っ赤に

●パンチパーマに「ナメてんかあ」

「ワラー、なんなら、そのアタマは。何年目の選手じゃ。ナメてんかあ。１００年早いわ！　そこの散髪屋で坊主（刈り）にしてこんかい！」

　入団会見の日、ボクら高校生新人６選手は、「パンチパーマをかけて入寮する」と約束して別れました。入寮日当日、額に剃り込みを入れて、グリグリにパーマをかけてきたのはボクだけです。寮長に広島弁で超ド級のカミナリを落とされ、その日は頭を丸めるだけで済みました。１８歳の新人選手といっても、もう社会人です。高校生のようにパーマをかけたぐらいでぶっ飛ばされたらたまりません。

　数カ月後、そんな甘い考えはふっ飛びます。当時の広島には二軍専用球場がなく、高校野球の名門校として知られる広陵高のグラウンドを借りていました。高校と寮の往復は、少々気の荒い二軍のマネジャーがバンを運転。広陵高までは河川敷の細い道を通るのですが、時速１００キロ以上で飛ばす暴走運転に目を覚まさない者はいませんでした。

●ゆがむ顔、遠のく意識

　選手と用具の運搬で汚れた車の清掃は新人の役目です。その日も練習が終わって寮へ戻るとピカピカに車を掃除しました。ところが、誰かが最後にドアを閉め忘れたのが悲劇のはじまりです。

　寮内にスピーカーの声が響き渡ります。

「１年目、集合せえーい！」

　駐車場に集まった新人８人（社会人２人を含む）を前に、怒り心頭のマネジャーは、ロックされていない車のドアを指さしながらボクにこう聞くのです。

「オイ、自動車工業。コレは何だ」

「ハイ？」

「このままの状態なら車はどうなるか、学校で習っただろ」

「バッテリーがあがります」

「そうじゃ。明日クルマが動かんだろうが！」

　その声とほぼ同時に目の前に火花が散り、鼻から血が噴き出しました。

「ナニ、血流してんやコラー！」

　鼻血をみたマネジャーはさらに興奮。顔面にパンチを繰り出してきます。顔は歪み、服は鮮血で染まるボクはまさにサンドバッグ状態。意識が遠のいていきます。

　他の７人は恐ろしい光景を目の当たりにしても、マネジャーの暴走を止める勇気などありません。

　そこへ大石（清＝投手コーチ）さんが戻ってきました。

「な、なに、やってんですかぁ、マネジャー！」

　大石さんがマネジャーを羽交い締めにして止めてくれなければ、ボクはどうなっていたかわかりません。

「とんでもない球団に入っちまったな」

　その晩、ボコボコになった顔を氷で冷やしながら後悔したボクに、追い打ちをかける事件が起きます。

▽ながしま・きよゆき　１９６１年１１月、静岡県浜岡町出身。７９年自動車工高からドラフト外で広島入団。チャンスに強い打撃と好守の外野手として広島の黄金時代を支える。８３年国内初の背番号「０」。ゴールデングラブ賞４回、８４年日本シリーズは３本塁打を放ちＭＶＰ。９１年中日移籍、９３年ロッテ、９４年から９７年阪神。現役引退後は、野村、星野、落合監督のもとで、阪神、中日の打撃、一軍守備走塁コーチなどを歴任。０６年オフ中日退団。通算１４７７試合、１０９１安打、１０７本塁打、４４８打点、９４盗塁、打率．２７１。１７０センチ、８１キロ、左投左打。

【2008年6月16日掲載】