今週のお役立ち情報
【眼光紙背】携帯で楽しく写真を撮って、円滑なコミュニケーションを
赤木智弘の眼光紙背:第37回
先日秋葉原で起きた通り魔事件関連の話題の1つとして、ネットで広く問題視されているのが、「現場写真を撮るヤジ馬」の問題である。目の前で殺人が行われている現場にいて、犯人を撮影する人。そして被害者を被害者を救助する人を撮影する人。さらには、撮影した写真を交換する人々。ついでにそうした写真を通行人に訪ねまくって集めようとするマスコミの態度に、「不謹慎だ」という批判が集中した。
さらに、その場でなくても、現場写真をブログに掲載して批判の対象になった人もいた。
そうした批判の中には、mixiで公開された、友人が被害者となり亡くなった方の日記(とされるもの(*1))があり、友人が応急処置の知識を持つ通行人に介抱を受ける一方で、数多くのやじ馬がその様子を携帯で撮影することに対して「不謹慎です、やめてください!」
と言ったけれども、まったく無視されるという、生々しい体験談も存在している。
昔から、事件や事故を中継するカメラの後ろでピースしたり、映り込もうとする人たちは決して少なくなく、それに対してテレビの向こう側で「なんだこいつらは」と、不謹慎に感じる人たちも多かったのだろう。
カメラに写り込もうとする人たちは自分たちの身の回りに降って湧いた、事件という「非日常」をマスコミの取材までもを含めた「イベント」であると考えているように思う。
それを「不謹慎だ」と考える心情は理解できる。しかし同時にそれを不謹慎だと考える側もまた、たいていは非日常をテレビの向こう側に見ながら、自らは日常生活を謳歌しているのであり、その姿勢は今も昔も変わらない。
しかし、昔と今が明確に違うところは、私たちは現在、「携帯電話」という日ごろ当たり前のように持ち歩くツールと一緒に「カメラ」と「通信環境」という2つの機能、そしてインターネットというほかの誰かと簡単に対話をする手段も同時に手にしている点である。
こうしたときに、やはり私たちは目の前の状況を最大限に活用しようと、自分が現在味わっている非日常を他人とのコミュニケーション手段として利用しようとする。
社会学者の本田由紀は、現在の労働問題に対する新しい考え方として、「ハイパーメリトクラシー」という概念を提唱している。
私の拙い脳みそで要約すれば、今までの社会は学歴などの能力をベースとしたメリトクラシー社会であったが、今の社会はそのような旧来の能力に加えて、コミュニケーションスキルや経済的な向上意欲などが要求される。
それは今までのような「仕事の上でさえ優秀であれば、私生活で少々人付き合いが悪かろうが、怠け者であろうが構わない」のではなく、「仕事は優秀、かつ私生活でも能力開発や異業種間交流(クラスター間交流なんていうと、いかにもそれっぽい)などを行い、企業の中に留まらない人間的価値を向上させるべきだ」という考え方である。そしてそれは一部のエリートではなく、社会人の多くが、からめ捕られつつある概念なのだ。
で、そのような考え方を、通り魔事件が起きた直後の秋葉原で写真を撮っている人々に適応させるとすると、「秋葉原で通り魔事件の現場に遭遇した私」の価値を最大限にするためには、自分がその場にいたことを証明する写真や映像が必要なのである。そしてそれを話の種として利用し、コミュニケーションを成功させることが、最前手なのである。そのために、たとえ被害者の友人が「不謹慎だ」と叫んだとしても、その彼は自分のコミュニケーションの相手ではないから無視、もしくはさらなるコミュニケーションの「ネタ」として扱えばいい。という事になる。
そもそも写真を撮る人々を問題視する人たちは、彼らを「やじ馬」と呼び、携帯で撮影するという「傍観者」性を批判するが、彼らにとってみれば、彼ら自身もまた犯罪に巻き込まれたかもしれない「関係者」であることは間違いない。
しかしそれ以上に彼らは、トップニュースになるような事件に巻き込まれた「体験者」である。
大事件の体験者は、自らの体験談や、写真や映像といった物的証拠によって、コミュニケーションを有利に行うことができる。それは彼らの一生を左右しかねない、大きなアドバンテージなのだ。
私がこの記事で批判したいのは、決して写真を撮っていた不謹慎な人たちではない。そうではなく、他人の不幸までもを道具にしなければならないということを、無自覚に受け入れてしまっている、この社会のありようそのものである。
*1:現在、そのmixi記事は公開に制限がかかっているそうで、実際にmixi上にあることを確認できないことから、このような表記とさせていただきます。
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「若者を見殺しにする国
眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。バックナンバー一覧
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