東京都杉並区立
第十小学校の教育環境
東京都杉並区の東にあって、中野区に近い木造住宅密集地域における防災公園とその周辺不燃化まちづくりが、学校づくりのきっかけである。杉並区立第十小学校は環状7号線沿いに位置していた。東京オリンピックの実施にあたり、道路整備が行なわれ、校地が縮小した。高円寺立体交差ののぼり坂に位置するため、排気ガスによる公害に悩まされてきた。2重窓エアコンつきの教室は、改修工事のため天井高が低く、暗かった。晴れた日は、光化学スモッグ発生のため外遊びはできず、プールには油が浮いた。関係者の長年の要望が入れられ、蚕糸試験場が筑波学園都市に移転した跡地4.2ha内への移転が可能になった。蚕糸試験場跡地は、東京の過密解消や都市防災の観点から、周辺市街地の不燃化と跡地を防災公園として整備することが国からの払い下げの条件であった。
住民参加による新しい市街地像の形成
当時、光が丘が広域避難場所として指定されていたが、遠隔地であることから避難困難地域であった。面積が10haに満たないため、広域避難場所として機能するためには周辺住宅地を不燃化する必要があった。静かな住宅地で、これまでに事例のない、第1種専用住宅地域(現在は地区計画で第1種中高層住宅地域に変更)を防火地域とすることについて、住民参加で議論した。不燃化による住宅の建替え、土地利用の可能性などからシュミレーションした市街地を模型にして議論した。耐火の建物は、二世帯住宅の区分所有が可能となり、賃貸部分をあわせて建設することができるなど性能上の利点があった。 |
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東京都(薄いグレー)杉並区(濃いグレー)現在地(白丸) |
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蚕糸試験場跡地不燃化計画図 |
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しかし、小規模建築のコストが異常に高くなることから、土地利用の高度化が進むことが誰の目にも明確となった。庭先のみどりや町の潤いがなくなるので不燃化は良くないという意見であった。しかし、地先の道路が狭く、消防活動困難地域であり、市街地が非常に危険な状態であることも、情報として浸透していた。跡地の利用について、防災のための整備も兼ねて、テニスコートや野球場などの施設型の公園ではなく、地域の庭となるようなみどり豊かな公園にしようという考え方から、「学校・防災公園構想」に結実していった。
- 地域施設と小学校とで施設を兼用し、立体利用する。
- 跡地全体の50%以上を緑化する。建築部分と裸地とは、#4.2haの半部以下とし、みどり面積をできるだけつくる。現存するみどりを活かす。
- 塀のない公園、学校とする。
- 防災機能として、飲料水や消火用水を確保する。
杉並区内はもとより、他に事例のない公共施設のあり方が実現したのは、住民の強い支持があったからである。また住民も不燃化という負担を受け持つことになった。現在も自分たちが造った街としての意識は高く、コミュニティの街意識は街の文化ともなって、公園の安全確保や維持管理、蚕糸祭りの開催などさまざまな形で機能している。
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休み時間における児童の分布図1(移転前) |
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休み時間における児童の分布図2(移転後) |
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蚕糸の森公園と杉並第十小学校
(中央のグランドは、小学校の運動場として、時間で使い分ける) |
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跡地内整備計画および防災設備図+小学校敷地範囲図 |
「学校・防災公園構想」による教育環境
この小学校の特徴は、校庭の周辺はもとより、公園の周辺にも塀がなく、地域に完全に開かれた状態になっている。財産上は、学校施設としての校庭と校舎とグランドの半分で、体育館と温水プールは、社会教育施設である。学校と公園が 一体となっており、時間で使い分けている。子ども達は隣接する公園を使って、自然に触れながら、勉強することができる。地域の人たちは学校が終われば、朝早くから夜遅くまで、グランドでスポーツを楽しむことができる。
地域のお年寄りなどは、散歩をしたり、子どもの授業を見たりして楽しむことができる。学校環境の児童に与える影響について調べたいと思い、この移転の機会を捉え、調査を企画した。小学校の中休みにおける、子どもの遊びの調査を学校移転前後5年間行った。移転前はボール遊び、縄跳びといった一人遊びや数人の遊びが中心であった。校庭が3000m2と狭く、校庭周辺は低学年、中央は4,5年生、5,6年生は屋上と体育館と分かれて使っていた。そのほか安全のためのルールがあり、遊び方の制限がきめられていたことなどが、間接、直接に影響していることが解った。移転後は校庭の広さは9000m2と広くなったためこれまでのような規則はなくなった。
その結果10人前後の集団遊びが何組もあり、広い校庭に適した新しいゲ―ムを考え出す状況も見られた。低学年への遊びの伝承が顕著で、スポーツのレベルアップが図られていた。学校用地は10,000m2であるが、9,000m2の運動場が確保できた。体育館も中学校規模で、プールも室内のため、天候や光化学スモッグに関係なく、使うことができる。
まちづくりからの設計条件
住民参加の形が、新しい学校建築の設計となるきっかけとなった。学校建築の設計条件はこれまでのものと異なり、以下に箇条書きで示すようなこととなった。また、この条件に基づく基本計画が承認された。学校建築の専門家からは、学校建築としては、ひどいものだといわれた。
しかし、都心で地域のコミュニティの核となる小学校が誕生し、大阪の池田小学校事件以後も周辺に塀をつくるのではなく、地域の人の眼で、学校の安全が確保できている実態を見ると地域に支えられた学校のあり方をひとつひとつ作っていく大切さを感じる。杉並区では、以後の学校づくりについては、住民参加で計画作成が行われるようになった。
- グランドの使用については、学校利用と地域利用を時間で分ける。管理者責任は区長の責任とし、学校長の責任としない。
- 少年サッカーの公式試合ができる広さと形状のグランドとする。
- 公園周辺とグランドや学校周辺には塀をつくらず、防災機能を持たせる。
- グランドは、雨水浸透機能を持たせ、跡地内の雨水を周辺に出さないようにする。
- 校舎は、東側の木造市街地の火災を遮蔽する目的から、跡地の東側に南北にながく配置する。
- 校舎は周辺市街地から、20m以上離す。南側市街地は中学校と挟まれ、圧迫感が強くならないようにセットバックした形状とする。
- 校内および児童の安全性を確保するため、昇降口はひとつにしぼり、主事室からの管理ができるようにし、出入りは他に設けない。鍵で管理できるところに制限する。
- 地域利用の出入り口と小学校の昇降口は、非常時の都市大火からの避難に対応する広さと消火設備を設ける。
- 建物の裏や陰になり、死角となるところは、できるだけつくらない。
- 校舎は、新しい教育方法が展開できる設計とする。(オープンシステム、多目的スペースなど)
- 地域利用が考えられる特別教室は、シャッターの使用により学校専用部分と分離して、社会教育施設の入口から利用できる形態とする。
〈計画工房〉 |