日本と中国は境界線をめぐり対立してきた東シナ海のガス田を共同開発することに合意した。主権問題を棚上げして経済的利益の分配で折り合い、国益の衝突が招く紛争を避ける一つの道を示した。
国連海洋法条約は沿岸から二百カイリを資源開発など主権が行使できる排他的経済水域(EEZ)と認めている。東シナ海のように日中両国のEEZが重なる場合、交渉で境界線を定める。
日本は両国の海岸線から等距離にある中間線を、中国は沖縄諸島西に広がる大陸棚の東端をそれぞれ主張してきた。
資源調査は両国が実施してきたが、中国は日本に先んじ日本の主張する中間線より中国側でガス田探査に成功。「春暁」「龍井」などを相次いで単独開発した。
これに対し、日本はガス田が中間線に近く日本側の資源を吸い上げられる恐れがあると抗議。それぞれのガス田に「白樺(しらかば)」「翌檜(あすなろ)」などと命名し権益を主張した。
首相の靖国参拝問題をめぐる日中関係の険悪化もあって、一時は日本側が係争海域での資源探査を準備。中国側は軍事力による排除さえ広言するなど対立はエスカレートした。しかし、両国は主権問題を棚上げした交渉を通じ四年がかりで合意にこぎ着けた。
主権の及ぶ土地や海域をめぐる対立は国際紛争を招きやすい。対立は各国のナショナリズムを刺激し、時に軍事衝突につながる。
日本も北方四島をロシアに、竹島を韓国に、それぞれ占拠されている。日本の尖閣諸島には中国と台湾が領有権を主張している。
各国・地域が経済発展で実力を蓄えナショナリズムが高まる中、紛争の危険も増している。
国益の衝突を、それぞれの国に根強い感情的な愛国主義に迎合することなく、冷静な外交交渉で解決した今回の合意は意義深い。
とくに過去、戦火を交え最近も歴史認識問題で対立した日中が合意を達成したことに国際社会も注目するだろう。もちろん、経済利益の分配は対立を解決する特効薬ではない。
東シナ海の海洋権益をめぐる対立は歴史問題をめぐる日中関係の険悪化が激化させた面が強い。その後の首脳交流再開をはじめ民間を含む両国関係全般の改善が経済利益の分配による解決を可能にした。
隣り合う日中両国が時に国益で対立するのは避けられない。今後も、その平和的解決には両国の「戦略的互恵関係」の発展と相互信頼の醸成がカギになる。
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