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社説:消費税増税 福田首相には覚悟が要る

 福田康夫首相が社会保障費の財源を確保するため、消費税率の引き上げは避けられないとの認識を示し、その是非について「決断しなければいけない大事な時期だ」と表明した。上げ幅などには触れなかったが、従来より踏み込んだ発言であり、場合によっては福田政権の行方を左右することになろう。

 「高齢化社会ということを考えると道は狭くなってきている」。こう語った首相の念頭には基礎年金の国庫負担割合を現行の3分の1から2分の1に引き上げる09年度が迫る中、これ以上、財源論議を先送りすべきではないとの考えがあるのだろう。

 負担割合引き上げのためには約2・3兆円が必要とされ、消費税率1%弱に相当する。ただ、年金だけでなく医療や介護など他の分野も消費税増税でまかなうとすれば「5%程度の引き上げが必要」というのが自民党内の一般的な意見だ。

 もちろん、国民に負担増を求めるには、税金の無駄遣いをやめ、公務員制度を含めて徹底的に行政改革を断行するのが大前提だ。

 だが、それでも消費税率引き上げが必要であり、政権をかける覚悟で国民に提示するというのであれば、その姿勢そのものは間違ってはいないと考える。

 消費税論議は絶えず政界でくすぶりながら、小泉純一郎元首相が「在任中は引き上げない」と宣言して以降、正面から議論すること自体が封印されてきたのが実情だからだ。

 しかし、議論の環境は小泉時代以上に厳しいというべきだ。自民党内は与謝野馨前官房長官ら増税派と、行革や経済成長を優先して消費税率引き上げに反対する中川秀直元幹事長らの対立が激しくなっている。

 「そもそも衆院選を前に増税などできるはずがない」との声も強く、公明党も慎重姿勢だ。増税論議で、さらに首相の求心力が失われる可能性がある。

 たとえ与党がまとまったとしても、民主党は小沢一郎代表就任後、増税論議を封印しており、反対する公算が大きい。仮に来年度から引き上げるとすれば関連法案の成立のためには衆院での再可決が必要となる。食料品などの物価高で国民の暮らしが厳しくなっている中で、実現させるのは至難の業といっていい。

 まず、首相は「高負担・高福祉」でいくのか、「低負担・低福祉」か、あるいは別の選択肢があるのか、国が進むべきビジョンを示すことだ。単に財源不足というだけでは話は始まらない。そして、与党をまとめたうえで、次期衆院選のマニフェストにきちんと書き込んで国民の信を問うのが正攻法ではなかろうか。

 首相もまさか、今回の発言は与党内や世論の反応を見る観測気球だったというわけではなかろう。「決断」と言ったからには覚悟が必要である。

毎日新聞 2008年6月19日 東京朝刊

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