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社説:ガス田合意 「協力の海」へさらなる努力を

 日中間の懸案だった東シナ海のガス田問題は、日中中間線付近での共同開発と、中国が先行開発しているガス田への日本側の資本参加によって解決を図ることになった。対立のもとにある排他的経済水域(EEZ)の境界画定問題を棚上げして歩み寄ったものだ。

 火種が消えたわけではないが、両国間の「ノドに刺さったとげ」のような存在だった問題が収拾の見通しになったことをひとまず評価したい。

 ガス田をめぐる対立は、東シナ海での日中のEEZが重なり合うため境界を画定できないことに原因がある。両国から等距離の中間線を境界とする立場の日本と、大陸棚の端の沖縄トラフまでが自国の経済水域だと主張する中国との折り合いがついていない。

 日本政府の説明では、EEZの境界問題は国際的には中間線論が主流になっているが、中国は日中中間線の存在を認めていない。03年に中国が中間線のわずかに中国側の海域で開発に着手した「白樺」ガス田(中国名・春暁)に対し、日本が「鉱脈はつながっており、資源が吸い取られる」と反発して対立が続いていた。

 今回の合意では、共同開発の対象は四つのガス田の最北部に位置する「翌檜(あすなろ)」(中国名・龍井)の南側で日中中間線をまたぐ海域とする。ガス田問題の象徴的な存在となった「白樺」については、すでに開発を進めている中国企業に対し日本側が出資する。

 5年越しの難題がここへきて合意に至った裏では、日中関係を重視する両政府首脳の強い意向が働いたのは確かだろう。

 福田康夫首相と胡錦濤国家主席にとっては、間近に迫った主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)や北京五輪を成功させるため互いの協力が必要だ。

 双方にそうした思惑があるにせよ、06年秋の安倍晋三首相(当時)の訪中から始まり昨年春の温家宝首相訪日、昨年暮れの福田首相訪中、そして今年5月の胡主席訪日と続いたトップ交流の積み重ねがもたらした効果も大きいに違いない。

 共同開発は日中が共同探査を行い、同意した地点を選択する。日本の開発参加に関しては、出資比率や利益配分などは今後の交渉で詰めるという。

 継続協議となった他のガス田の扱いも含め、互いに誠意をもって交渉を進めてほしい。

 東シナ海の天然ガスは、エネルギー戦略上のメリットは比較的少ないといわれる。日中がこの問題で対立したのは、エネルギー問題というより主権問題の要素が大きいからにほかならない。

 棚上げされた境界画定問題は主権や海洋権益にかかわるだけに容易に結論は出ないだろう。だが、東シナ海を真に「平和と協力の海」にするには、この問題にも粘り強く取り組む必要があると指摘しておきたい。

毎日新聞 2008年6月19日 東京朝刊

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