相次ぐ製品事故や偽装などにより、日本が誇ってきたものづくりへの信頼が揺らいでいる。二〇〇七年度版「ものづくり白書」は現状への強い危機感を示すとともに、製造に携わる関係者が一体となって信頼回復に取り組むよう求めている。
ガス湯沸かし器による一酸化炭素中毒死やシュレッダーでの子どもの指切断事故、再生紙偽装など製品をめぐるトラブルが急増している。〇七年のリコール件数も独立行政法人・製品評価技術基盤機構の集計によると、百九十四件と前年を三十六件上回った。一九九八年の九倍以上である。
安全に対する社会の関心の高まりから、企業がリコール情報を積極的に公開した面もあろうが、それだけ製品に問題があったことになる。白書は増加の背景について、国際的な競争激化によってコスト削減を優先し、安全や信頼への取り組みが不十分だったと指摘する。
ものづくりそのものの高度化や複雑化も一因に挙げた。製品の電算化によって高機能化、多機能化が進む。新製品に対する要求が強く、製品開発期間が短縮されていることもトラブルの要因であろう。
製造の分業化も安全の徹底を難しくしている。部品会社から完成品メーカーまで多くの企業が絡み合う時代になった。一企業だけの安全への取り組みでは限界がある。
白書は総力戦の重要性を説いている。原材料の調達から製品を消費者に届けるまでのすべての企業間で、協力体制を築いていくことが必要だと強調する。日本機械工業連合会のアンケートでは、企業間の協力の必要性は「非常に大きい」あるいは「大きい」とする企業が64・5%に上った。
もちろん、企業が厳しい競争下で製品事故を減らすには、ものづくりの現場だけでなく、経営陣の積極的な関与がなければ成果はおぼつかない。コンプライアンス(法令順守)の強化に指導力を発揮しなければ、企業の存続さえ危うくなろう。製品の偽装問題など論外だ。
物足りないのが、行政の責任について白書が触れていない点である。製品への疑念を招いたのは、企業だけの話ではない。ガス湯沸かし器事故では、経済産業省の事故情報の収集体制が不十分だった。産業育成に主眼を置いた姿勢や、縦割りの弊害が対応を遅れさせた。
総力戦をいうのなら、国自らが反省と強い決意を白書に示してこそ、官民が危機意識を共有し、製品の安全確保に取り組む盛り上がりとなろう。
札幌市にある国土交通省北海道開発局の発注した公共工事をめぐる官製談合事件で、札幌地検が国交省北海道局長の品川守容疑者と、北海道開発局石狩川開発建設部の元幹部二人を談合の疑いで逮捕した。東京・霞が関の本省の北海道局長室なども家宅捜索した。中央官庁の現職局長の逮捕という事態に衝撃を受ける。
調べでは、品川容疑者は北海道開発局建設部長だった二〇〇五年に、石狩川開発建設部が発注した二件の河川改修工事で特定の業者に落札させる目的で談合した疑い。元幹部二人は、開発局退職後、道内の建設会社に天下りして役員に就任し、業者側の調整役として〇五―〇七年の計四件で談合した疑いが持たれている。
典型的な官製談合である。北海道開発局の入札資料によれば、事件の舞台となった石狩川開発建設部が〇五―〇七年度に行った河川土木工事の入札で、談合が疑われる落札率95%以上の高率は四割超に上る。
また、開発局発注の工事をめぐっては、五月に札幌地検が別の農業土木工事で談合を主導したとして、談合罪で元農業水産部長ら三人を逮捕、起訴した。局ぐるみの談合体質があったと疑われても仕方あるまい。
国交省は、〇七年に河川やダムの水門設備工事をめぐる談合で公正取引委員会から中央省庁で初めて官製談合防止法が適用され改善措置を要求された。今回の事件は〇五年に起きているが、防止法は〇二年には成立していた。国交省の峰久幸義事務次官は「極めて由々しき未曾有の不祥事と認識している」と陳謝したが、繰り返される官製談合を断ち切ることができるのか。官民癒着の温床になっている天下りを禁止する覚悟がなければ再発は防止できまい。
(2008年6月18日掲載)