一昨日の「レコード手帖。」小島泰生さんのシリーズ「汚レコード」、やっぱり今回も評判が良かったようです。
小島さんは投稿が少ない、ナカナカ見つからない(© スリー・ファンキーズ)、と、新宿でお会いしたとき嘆いていましたが、ナカナカどうして、素晴らしい成果だったのでは。
じつは、ぼくも一枚、そういうレコードを持っていたのですが。それは、ある米国の女性シンガーのファースト・アルバム。
まるでビリー・ホリデイのようなしわ嗄れ声でフォーク・ブルースを歌うこの白人女性歌手のセカンド・アルバムは大学生になって間もない頃、どこかの輸入レコード店で手に入れましたが、その数年前にメジャー・レーベルからリリースされていたデビュー盤は、レコードショップの店頭では一度もお目にかかったことがありませんでした。
去年、何故か突然そのレコードが聴きたくなって、いつも行く渋谷のレコードショップで、いままでに入荷したことがあるか、そのとき値段は幾らくらいだったか、というようなことを尋ねてみたのです。
このお店の御主人は、自分にとってフォーク・ミュージックのスペシャリスト、というような存在でしたから。
すると、奥で作業していた若いスタッフの方が、棚の下から、まさしく件のレコードを出してきてくれたのです。
すると御主人が、これは売り物じゃないのですけれど、試聴なさいますか、と言うので、喜んで、お願いします、と答えました。
御主人が申し訳なさそうに、この裏ジャケットのいたずら書き、これがあるから、売れないのです、キレイなジャケットが見つかるまでストックするつもりだったので、と言うのです。
その裏ジャケットにはボールペンの文字で「beware-this women can not sing」と書いてありました。
ぼくはこの話を見識あるレコードショップの美談、として紹介するつもりはなくて。ボールペンで落書きした、かつての所有者は、どうしてこんなことを書いたのか、やはり興味があって。その意味では「汚レコード」の執筆者、投稿者の興味と同じです。
元の所有者は、このヴォーカリストの独特な歌唱スタイルに、強い拒否反応を示したのか。ジュディ・コリンズのような清楚な歌を期待していたのに、針を下ろしてみて面食らったのか。
あるいは、単に虫の居所が悪くて、このレコードにやつ当たりしたのかもしれない。むしゃくしゃしてやった。相手は誰でもよかった。今は反省している。というヤツ。持っていたレコードに片っ端から悪態をついて、ボールペンを走らせていたり。
いちばん愉快な妄想は、この女性シンガーその人をよく知っている、つまり、かつてたいへん親密な関係にあった男性が、怨みを込めて書いた「紹介状」、というもの。
いずれにせよ、その落書きは、当のレコードへのコメント、最近の言葉で言うのなら、「カスタマー・レヴュー」になっていたわけです。どんなに酷い誹り、罵りの言葉も消すことが出来ない、という点では、まさにどこかのカスタマー・レヴューと似ています。
もちろんレコードの内容が、以前の持ち主の言う通り、聴くに値しないものであったなら、ぼくも買うことはなかったでしょう。けれども試聴させてもらった音楽は、はたして予想を上回る素晴らしいもので、ひとたび聴いてしまった後では、この落書きもまた、その強烈なスタイルに対する絶賛のコメントのように思えたほど。レコード店の御主人は、申し訳なさそうに、相場よりずっと安い値段を付けてくれ、ぼくはそのレコードの新しいオウナーとなりました。それにしてもこのアルバム、いまとなってはタイトルもまた意味ありげです。
it's so hard to tell who's going to love you the best
誰があんたをいちばん愛するようになるか、なんて分からないね。
さあ、きょうの「レコード手帖。」は、大好評連載・須永辰緒さんによるDJ水滸伝の第4回目。長いシリーズになりますよ、小西さんが登場するのは、まだずっと先ですけど。と、須永さんも仰ってました。うひゃ、楽しみです。
そうそう、7月第4土曜日・大阪カーマでの「READYMADE WEEKEND」のゲストは、須永さんですよ! 皆様、どうぞ、お楽しみに。
ビーチェさん、いよいよジャケット完成間近。ちょいとセクシー。では、きょうも。
(小西康陽)